今さらながらの日本文学入門

学びの棚

「近代文学=難しそう」と思い込んで、ずっと避けてきたジャンル。けれど、今こそ腰を据えて向き合うタイミングかも? まずは文豪の背景を辿りながら、気になる作品を少しずつ読んで、日本文学の世界を再発見していきたいと思います。なお、作品は随時追加する予定。

眠れないほどおもしろいやばい文豪/板野博行

ほんの少しは読んだことがあるけれど、実はあまり読んでいない文豪の名作。なんとなくハードルが高いので、手に取るきっかけになればと読んでみました。各文豪の驚嘆エピソードでぐいぐい惹きこまれる一冊です。

本モス
本モス

どの作家のエピソードも尋常でない。作家に興味を持つことで、自ずと作品にも手が伸びるのでは⁈実際に私も読了後、中島敦と泉鏡花の本に手を伸ばしました

古都/川端康成

京都の老舗呉服問屋の娘である千重子は、祇園祭の夜、自分とそっくりな娘・苗子と出会います。京都の伝統ある行事や街並み、美しい景色を背景に、二人の運命の歯車が回り始めます。

  • 千重子・・・京都の呉服屋の娘
  • 苗子・・・北山杉の里の娘。千重子に瓜二つ
  • 真一・・・千重子の幼馴染の大学生
  • 秀男・・・西陣の織手

上のすみれと下のすみれとは、一尺ほど離れている。年ごろになった千重子は、「上のすみれと下のすみれとは、会うことがあるのかしら。おたがいに知っているかしら。」と思ってみたりする。すみれ花が「会う」とか「知る」とかは、どういうことなのか。

「古都」川端康成、新潮文庫 2023年 p6

本モス
本モス

「美しい日本語」と聞くと、真っ先に思い浮かぶのがこの『古都』です。
すみれや蝶、西陣織など、繊細な色彩の言葉がページいっぱいに広がり、古都の情景が目に浮かびます。
『雪国』も読んでいますが、個人的には『古都』がいちばん好き。
ちなみに、私の大好きな日本画家・東山魁夷さんが北山杉の絵を贈ったという逸話もあり、絵画好きにもおすすめしたい作品です。

おすすめ関連作

東山魁夷さんの珠玉のエッセイ。私はこのエッセイを先に読み、川端康成作品を読むことにしました。国民的文豪と国民的画家、二人の描く”日本の美”には、通じるものがあると勝手に思っています

文字禍・牛人/中島敦

中島敦の本を読みたくて作者買いした一冊。収録作品は、「狐憑」「木乃伊」「文字禍」「牛人」「斗南先生」「虎狩」の六作品。「狐憑」~「牛人」は短編で「斗南先生」「虎狩」は中編でした。

本モス
本モス

10ページ足らずの短編なのに内容が濃厚でした。個人的には、自伝的な内容の「斗南先生」や「虎狩」よりも、異国の不思議な話を題材にした短編、特に「文字禍」が好みでした。高校生の時に授業で習った「山月記」よりも読みやすい印象です。また、中島敦は横浜で女学校の教師をしていたとのこと。こんな作品を書く文豪に教えてもらえるなんてすごい時代です。

文字の無かった昔、ピル・ナピシュチムの洪水以前には、歓びも智慧もみんな直接に人間の中にはいって来た。今は、文字の薄被をかぶった歓びの影と智慧の影としか、我々は知らない。近頃人々は物憶えが悪くなった。之も文字の精の悪戯である。人々は、最早、書きとめて置かなければ、何一つ憶えることが出来ない。

「文字禍・牛人」中島敦 2020年 p30

高野聖/泉鏡花

泉鏡花の本が読んでみたくて作者買いした一冊。収録作品は、「義血侠血」「夜行巡査」「外科室」「高野聖」「眉かくしの霊」の5作品。「夜行巡査」と「外科室」が短編。その他は中編でした。

本モス
本モス

解説に”歎美な魅力”とありましたが、まさに雅で妖しい世界観でした。中島敦の漢文調とも異なる独特の古典調の優雅な美文でした。有名なのは「高野聖」なのでしょうが、本モスはファンタジーではない「義血侠血」「夜行巡査」「外科室」が好きでした。登場人物の愚かなほどの一途さが、胸に迫る作品でした。日本文学が誇らしくなる傑作。

野菊の墓/伊藤左千夫

二十数年ぶりの再読。収録作品は「野菊の墓」「浜菊」「姪子」「守の家」の四作品ですが、「野菊の墓」以外はすっかり忘れていました。矢切の渡し付近の静かな田園を舞台に、十五の政夫と二つ年上の従弟・民子との間に芽生えた恋。しかし二人は、世間体を気にする大人たちに隔てられてしまいます。

本モス
本モス

若い男女の悲恋といえば、誰もが思い浮かべるのはシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』。
けれど、日本文学の傑作『野菊の墓』は、激しい情熱とは対照的に、静かで可憐な哀しみが胸に沁みます。
日本的な哀しみの繊細さを感じた物語でした

「僕はもとから野菊がだい好き。民さんも野菊が好き……」
「私なんでも野菊の生れ返りよ。野菊の花を見ると身振いの出るほど好もしいの。どうしてこんなかと、自分でも思う位」
「民さんはそんなに野菊が好き……道理でどうやら民さんは野菊のような人だ」
 民子は分けてやった半分の野菊を顔に押しあてて嬉しがった。二人は歩きだす。
「政夫さん……私野菊の様だってどうしてですか」
「さアどうしてということはないけど、民さんは何がなし野菊の様な風だからさ」
「それで政夫さんは野菊が好きだって……」
「僕大好きさ」

「野菊の墓」伊藤左千夫、新潮文庫 1999年 p23

幽明遥けく隔つとも僕の心は一日も民子の上を去らぬ。

「野菊の墓」伊藤左千夫、新潮文庫 1999年 p67

尾崎紅葉の「金色夜叉」/山田有策

前途洋々たるエリート青年・貫一と、美しい許嫁・宮。二人の未来は約束されていたはずでした。ところが宮は富豪の御曹司との縁談を選び、貫一を裏切ります。熱海の海岸で宮を蹴り飛ばし姿を消した貫一は、数年後、冷酷な高利貸「金色夜叉」として宮の前に現れるのです。明治の新聞小説として一世を風靡した、愛と金銭、裏切りと復讐を描いた名作です。

  • 間貫一(はざまかんいち)・・・両親を亡くし鴫沢家に引き取られる。宮の婚約者。
  • 鴫沢宮(しぎさわみや)・・・鴫沢家の一人娘。貫一を裏切り、富山唯継に嫁ぐ。
  • 赤樫満枝(あかがしみつえ)・・・父親の借金のかたに高利貸・赤樫権三郎の妻になるが、今では美人高利貸として恐れられる。貫一に迫る。
  • 荒尾譲介(あらおじょうすけ)・・・貫一の親友。失踪した貫一を案じる。

来年の今月今夜は、貫一は何処で此月を見るのだか!再来年の今月今夜……十年後の今月今夜……一生を通して僕は今月今夜を忘れん、忘れるものか、死んでも僕は忘れんよ!

『尾崎紅葉の「金色夜叉」』山田有策、角川ソフィア文庫 2025年 p38

本モス
本モス

明治の文学作品という先入観が、良い意味で見事に覆されました。昼ドラも顔負けのドロドロした愛憎劇に、ページをめくる手が止まりません。愛より金を選んで後悔する女・宮と、金色夜叉となってもなお金を蔑む男・貫一。そして高利貸として生きる道を選ぶもう一人の女性。急展開の連続に加え、登場人物それぞれに強烈な個性があり、作者の死により未完に終わったにもかかわらず、数多くの二次創作が生まれたのも納得の衝撃作です。
今回読んだのは原作のエッセンスを紹介したダイジェスト版でしたが、次はもう少し完全な形で、この物語の世界にどっぷり浸ってみたいと思います。
きっと当時は「今月今夜~」が流行語だったのではないでしょうか。

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