「あの人は本当に善人だったのか?」——通夜の席という静かな舞台から、こんなにもスリリングな物語が立ち上がるとは思いませんでした。藤崎翔さんの『神様の裏の顔』は、一人の故人をめぐる証言が少しずつ繋がり、思いもよらない方向へ転がっていくミステリです。今回はそんな”視点の妙”が光る一冊をご紹介します。
基本情報
- 著者名:藤崎翔
- ジャンル:ミステリ
- 時代・舞台:現代・とある通夜の席
登場人物
- 坪井誠造(故人):元小学校教師。無私の精神で理想の教育を追い求めた、誰からも慕われる”神様のような”人物。物語はこの人の通夜から始まります。
- 坪井晴美:誠造の娘。父の背中を追って小学校教師になった、容姿端麗で生真面目な女性。
- 根岸義法:誠造の元同僚の体育教師。厳しい生徒指導で「鬼教師」と恐れられていた人物。
あらすじ
神様のように清廉だと慕われた元教師・坪井誠造が亡くなり、その通夜には年齢も職業もさまざまな参列者が集まります。誰もが彼の死を悼み、悲しみに包まれた——はずでした。ところが、元教え子や元同僚、隣人や娘といった面々が故人を思い返すうち、その言葉の端々から、温厚だったはずの人物像に妙な綻びが見え始めます。やがて持ち上がる、とんでもない疑惑。彼は本当に「神様」だったのか。それとも別の顔を隠していたのか。参列者それぞれの胸のうちが交錯し、物語は予想もつかない場所へと進んでいきます。
おすすめポイント
参列者ひとりひとりの心の声が次々と切り替わって語られるため、登場人物本人たちは気づけない事実に、読者だけが少しずつ気づいていけます。バラバラの証言が一枚の絵になっていく快感は、この多視点ミステリならではの醍醐味です。
「善人だった」「いや悪人かもしれない」と、評価が場面ごとにくるくる反転していきます。一度固まりかけた結論があっさり覆される瞬間が何度も訪れ、ページをめくる手が止まらなくなります。
物語のほとんどが通夜の場で進むからこそ、人物の証言と記憶だけで真相に迫る面白さが際立ちます。派手な事件現場がなくても、これだけスリリングになるのかと唸らされました。
本モスの感想
いやはや、まんまとやられました。最初は「故人を本気で悼む、いい通夜だなあ」としんみり読んでいたんです。ところが参列者たちの心の呟きを覗き見ているうちに、「あれ?」「ん?」という違和感がじわじわ積み上がっていく。登場人物は誰も全体像を知らないのに、読者である私だけが点と点を繋いでいける——この”神様視点”のワクワク感がたまりませんでした。
しかも通夜ぶるまいの席で、参列者それぞれの持つ手札がテーブルに並ぶ場面の鮮やかなこと。一枚ずつめくられるたびに印象がひっくり返り、「もうこれで決まりだろう」と思った先に、さらに足をすくわれます。詳しくは書けないのですが、終盤の畳みかけは本当に見事でした。

ミステリは結末を知ってしまうと魅力が半減しがちですが、本作は構成そのものが仕掛けになっているので、まっさらな状態でぜひ。読み終えたあと、もう一度タイトルを眺めて唸ること請け合いです。さて、次はどんな”裏の顔”に出会えるやら。
こんな方におすすめ
- 多視点・群像劇の構成が好きな方
- 二転三転するどんでん返しのミステリに興味がある方
- 派手な事件より、人間の心理や証言で真相に迫る物語が好きな方


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