日本史の教科書では数行で語られる「白村江の戦い」。その裏でどんな人間ドラマと謀略が渦巻いていたのか――荒山徹『白村江』は、飛鳥時代の東アジアを圧倒的スケールで描き切った長編歴史小説です。蘇我入鹿が「憧れの存在」として登場した瞬間、物語の行方がまったく読めなくなりました。
基本情報
- 著者名:荒山徹
- ジャンル:時代小説・歴史小説
- 時代・舞台:飛鳥時代の日本、朝鮮半島
登場人物
- 余豊璋(よ・ほうしょう):腹違いの兄に処刑されかけた百済の王子。倭国へ亡命し、運命に翻弄されていく物語の主人公。
- 金春秋(きん・しゅんじゅう):王位継承者でありながら不遇な立場に置かれた新羅の王族。
- 蘇我入鹿(そがの・いるか):天皇位簒奪への野心を燃やす倭国の実力者。豊璋にとって「憧れの存在」。
- 葛城皇子(かつらぎのみこ):のちの天智天皇。聖徳太子の遺志を継ぐべく、深謀遠慮を巡らせる。
あらすじ
六六〇年、唐・新羅連合軍によって百済が滅亡。王族のほとんどが長安へ送られるなか、倭国へ亡命していた王子・豊璋だけが遺されます。新羅の金春秋、高句麗の泉蓋蘇文、倭の蘇我入鹿、そして葛城皇子――各国の思惑が複雑に絡み合い、東アジアは激動の時代へ。大化の改新、朝鮮半島の動乱、そして白村江の戦いへと連なる歴史の裏側で、いったいどんな陰謀が蠢いていたのか。一人の王子の数奇な生涯を軸に、壮大な歴史絵巻が幕を開けます。
おすすめポイント
蘇我入鹿といえば日本史では悪役の代表格。ところが本作では、死の淵にいた豊璋少年を救い、船上でイルカと戯れる魅力的な人物として描かれます。この一点だけで、大化の改新という「結末を知っている」はずの読者すら、先の展開がまったく読めなくなる。歴史小説でありながら、ミステリのようなスリルを味わえます。
蘇我氏対葛城皇子、百済の鬼室福信、新羅の金春秋、高句麗の泉蓋蘇文――登場するのは一筋縄ではいかない策略家ばかり。少年たちの成長譚と並行して、各国の暗闘がすさまじいスケールで展開していきます。東アジア全体を俯瞰する視点の壮大さは圧巻です。
物語の骨格だけでなく、文章そのものが躍動感と美しさに満ちています。凄惨な場面は一層凄惨に、爽やかな場面は一層清々しく――書き手の技巧が、物語の感情を何倍にも増幅させてくれます。
本モスの感想
初っ端から凄惨なスタートで度肝を抜かれました。腹違いの兄の謀反で母を惨たらしく殺され、自身も殺されかける百済王子・豊璋。死の寸前に救ったのが、倭国宰相の息子・蘇我入鹿。船中でイルカと戯れる入鹿の姿に、悪役イメージが見事に裏切られ、これは大変な物語が始まったぞと姿勢を正しました。
雀という名で巣箱に匿われ成長する豊璋、生涯の友・田来津との出会い。少年たちの瑞々しさとは裏腹に、各国の暗闘は容赦がありません。そして物語を大きく廻すのが黒幕ナンバーワン・葛城皇子です。表と裏の顔を使い分け、張り巡らされる深謀遠慮――その駆け引きの底知れなさには、ただただ唸らされました。

そんな中、豊璋と田来津、ふたりの間に流れる空気には、凄惨な物語の中でも不思議と清々しさがありました。そして最後の一文。読み終えてもなお、その一行に込められた願いが胸に残り続けています。骨太な内容と美しい日本語、その両方を堪能できる一冊。読後、しばらく飛鳥時代から戻ってこられませんでした。
こんな方におすすめ
- 壮大なスケールの歴史小説・時代小説が好きな方
- 教科書では語られない「歴史の裏側」の人間ドラマに興味がある方
- 古代日本や朝鮮半島の歴史、東アジアの国際情勢に関心がある方
⇒壮大な歴史小説をもっと読みたい方は「おすすめ時代小説〈日本編〉」もどうぞ
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よくある質問(FAQ)
Q. 『白村江』は史実をどこまで踏まえた作品ですか?
A. 大化の改新や白村江の戦いといった史実の枠組みを踏まえつつ、その裏側の人間ドラマを大胆な想像力で描いた歴史小説です。
Q. 飛鳥時代や朝鮮半島の歴史に詳しくなくても楽しめますか?
A. 各国の関係や人物が丁寧に描かれているので、予備知識がなくても物語にぐいぐい引き込まれます。むしろ読後に歴史を調べたくなる一冊です。


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