おすすめ時代小説〈日本編〉――古代から明治まで、日本歴史小説をまとめて紹介

物語の棚

古代の権力争いから平安末期の動乱、戦国の乱世、江戸の人情、そして激動の明治まで——日常から少し離れて、この国の歴史の深みに浸りたいとき、時代小説はうってつけです。このページでは、古代から明治まで各時代を舞台にした日本の歴史小説・時代小説おすすめ作品を随時まとめて紹介していきます。まだ読んだことのない時代の物語との出会いのきっかけになれば嬉しいです。

隼別王子の反乱/田辺聖子 <古代>

ヤマトの大王の想われびと、女鳥姫と恋に落ちた隼別王子。大王の放った舎人らに、姫を奪われた隼別王子は、大王の宮殿を襲い、叛乱を起こしますが・・・。
古事記の中の濃密な物語が、田辺聖子さんの筆で美しくも凄絶に語られます。

本モス
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若く美しい隼別と女鳥の恋。老いへの抗いゆえに、若さに嫉妬する大鷦鷯と磐之媛。五世紀の豊蘆原を舞台に、二組の男女の物語が、めくるめく展開されます。女鳥姫の領巾がひらひら舞う様や、隼別の黄金の甲冑姿、怪しげな太占などが、田辺聖子さんの紡ぐ美しい言葉で語られ、その世界観にすっかり魅了されてしまいました。王朝文学とは異なる、荒々しくも美しい物語。やっぱり田辺聖子さんの物語が大好きです!と叫びたくなる一冊。

⇒田辺聖子さんの本に興味のある方はこちら

ワカタケル/池澤夏樹 <古代>

時は5世紀。大王アナホが殺され、弟のワカタケルは王位に最も近い兄たちを手にかけ、豪族らをねじ伏せて自ら大王の座についた。血に塗れた治世の始まりだった——。豊かな自然と神々とともに生き、未来を見る力を持つ女たちと國を束ねたワカタケル大王の生涯を描く、古代日本の大河小説。

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主人公に感情移入して血沸き肉躍る、というタイプの物語ではありません。ワカタケル自身が大王になるために兄のクロヒコとシロヒコ、従兄弟をためらいなく次々と手にかけていくのですから。それでもページをめくる手が止まらないのは、古事記や日本書紀に記される5世紀という捉えどころのない時代を、文学として鮮やかに書き表しているからだと思います。イザナギ・イザナミからアマテラス、カムヤマトイワレビコへと連なる神話と、國の成り立ち、そして歴史がひとつの物語の中でつながっていく感覚は、これまで読んだ小説ではなかなか味わえなかったものでした。ありそうでなかった一冊、という言葉がこれほど似合う作品もそうありません。

天風の彩王 藤原不比等/黒岩重吾 <飛鳥時代>

壬申の乱により天智天皇系から天武天皇系へと権力が移り、父・中臣鎌足の影響で天武天皇に疎まれた若き不比等。出世の機会を与えられない雌伏の時を経ながらも、知謀と強運を武器に昇進をとげ、律令国家の基礎を築いていく——藤原氏繁栄の祖の凄烈な生涯を描く、古代史小説の第一人者による渾身の一作。

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藤原道長へと続く藤原氏繁栄の祖というイメージから、順風満帆に出世した人物だとばかり思っていました。ところが実際は、父の栄光が逆に重荷となり、若年時代には長い雌伏の時を過ごしていたとは。だからこそ不比等は可能な限り力を身につけようとしながらも、奢らず己を律する姿勢を貫く——そんな深みのある人物像は、とても魅力的でした。また、不比等が推し進めた律令制の先進性についていけず、壬申の乱の残り香にすがる人々の姿も印象的でした。時代の過渡期に取り残される人と突き進む人がいるのは、いつの時代も変わらないのだと——めまぐるしく変わる世の流れを見ている身としては、どこか他人事とは思えませんでした。

刀伊入寇 藤原隆家の闘い/葉室麟 <平安時代>

平安中期、朝廷きっての貴公子でありながら「さがな者」と呼ばれた藤原隆家。道長との政争に破れ大宰府へ赴任した彼を待ち受けていたのは、壱岐・対馬を蹂躙し博多への上陸を目論む異民族「刀伊」の襲来だった。陰陽師・安倍晴明に「あなた様が勝たねば、この国は亡びます」と告げられた男が、未曾有の国難に立ち向かう——清少納言や紫式部とも交わった平安の貴公子が主人公の、雄渾なる戦記エンターテインメント。

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平安時代といえば雅な宮廷文化のイメージが強いですが、この一冊はそのイメージを根底からひっくり返してくれます。藤原道長が権勢を誇る時代に強者におもねらず、自らの筋を貫き通す隆家の生き様には、最初のページから引き込まれました。宮廷政治の駆け引きあり、異民族との息詰まる戦闘あり——読みながら何度「頑張れ隆家!」と心の中で叫んだことか。歴史の教科書では語られない平安時代の国防の実態と、そこに立ち向かった実在の人物の奮闘が、これほどスリリングに描かれているとは思いもよりませんでした。平安時代小説の新たな扉を開いてくれた一冊です。

泣くな道真 大宰府の詩/澤田瞳子 <平安時代>

政敵から大宰府へ左遷された菅原道真。悲憤慷慨する彼にお相手役の保積もお手上げ。そこへ美貌の歌人・恬子が現れ、博多津の唐物商へと誘う。書画骨董の目利きの才を発揮しながら生気を取り戻した道真は、府庁を揺るがす不正事件に自ら奇策で立ち向かう——学問の神様の意外な一面を描いた、平安時代を舞台にしたユーモア歴史小説。

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「天神様」「学問の神様」——そのイメージが180度ひっくり返りました。授業で習う道真といえば大宰府へ左遷されたところで終わりですが、その後の人間らしい生き様がこれほどポップに描かれるとは思いもよりませんでした。骨董の目利きとして才能を発揮したり、府庁の窮地に奇策で挑んだり——教科書の中の謹厳実直なイメージはどこへやら、読んでいるうちにすっかりこの道真が好きになってしまいました。歴史上の人物の「その後」を掘り下げた物語の面白さを改めて実感した一冊です。

茜唄/今村翔吾 <平安時代>

平清盛の最愛の子として知られる平知盛。
巨星・清盛を失い、平家が没落の道をたどるなかで、武士の生き方を模索しながら一門を支え続けた知盛の生き様が胸を打ちます。
直木賞作家・今村先生が、その生涯を、平家一門を、熱く描いた傑作です。

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最初のページから最後まで、ただただ圧巻!
知盛はもちろん、教経や知章、重衡、木曾義仲まで、誰もが綺羅星のように眩しく輝いています。
そして今村先生の筆が描く『平家物語』は、もちろんただの史実の再現ではなく・・・。
読み終えたあと、しばらく放心するほどの余韻。この一冊で、すっかり平家ファンになってしまいました。

⇒平家物語に興味のある方はこちら

義経じゃないほうの源平合戦/白蔵盈太 <平安時代>

源範頼は普通の感性のいたって普通の武将。ただひとつ普通じゃないのは、兄は政略の天才・源頼朝、弟は戦の天才・源義経だったこと。非凡な兄と弟に挟まれながら、平凡ながら戦の糧食調達に精を出し、地道で堅実に生きる範頼の物語。

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源範頼という名前、確か『平家物語』や『茜唄』で義経軍の一員として出てきたような……その程度の薄い記憶しかない武将でした。そんな脇役中の脇役を主人公にするという、まずその発想に「なるほど!」と膝を打ちました。
そして実際に読んでみると、天才兄弟の間で苦労する範頼の姿が妙にリアルで、どんどん感情移入していきます。歴史小説といえば英雄譚を期待しがちですが、特別な才能を持たない「普通の人」が見た源平合戦という切り口が新鮮で、思わず自分を重ねてしまう面白さがありました。

蝶として死す/羽生飛鳥 <平安時代>

1183年、木曾義仲軍が平家を破って都入りした。平清盛の異母弟・平頼盛は一門と決別し都に留まるが、義仲から「首のない五つの屍の中から恩人を特定してほしい」という難題を持ちかけられる。平清盛、源頼朝、北条時政——乱世の権力者たちと対峙しながら、推理力を武器に生き抜いた頼盛の生涯を描く連作ミステリ集。第15回ミステリーズ!新人賞受賞作「屍実盛」ほか全5編。

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平安末期という時代背景がとにかく好きなので、清盛、義仲、頼朝、北条時政と豪華な顔ぶれが毎回登場するだけでテンションが上がります。中でも平清盛のヒールっぷりは貫禄と因縁においてダントツで、登場するたびに圧倒されました。短編の中では「屍実盛」がお気に入りです。タイトルにもなっている「蝶として死す」という頼盛の生き様にはグッと胸に来るものがありました。そして読み終えてふと気づいたのですが——この平頼盛、『歌人探偵定家』の保盛の父親でしょうか。だとすれば、シリーズをまたいだつながりに思わずニヤリとしてしまいました。

歌人探偵定家/羽生飛鳥 <鎌倉時代>

平家一門の生き残り・平保盛がある日、都の松木立でバラバラ死体に遭遇する。生首には紫式部の和歌が書かれた札が針で留められていた。そこに現れたのが、和歌を愛してやまない青年歌人・藤原定家。「和歌を汚された」と憤慨した定家は、死体を検分できる特異な能力を持つ保盛を巻きこんで事件解決に乗り出す——和歌の絡む五つの謎を描く連作ミステリ。

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エキセントリックな定家と、顔はいいのに何かと損な役回りの保盛というコンビが絶妙で、読み始めたらあっという間に引き込まれました。連作ミステリならではの、各話の謎が積み重なって最後に一つにつながる結末の気持ちよさもさることながら、鎌倉時代初期という歴史背景がミステリの舞台として実に巧みに活かされていて、読み応え十分。和歌の知識がなくても十分楽しめますが、少しでも興味のある方はさらに深く味わえる一冊だと思います。

賊徒、暁に千里を奔る/羽生飛鳥 <鎌倉時代>

伝説の盗賊の棟梁、小殿の屋敷を橘成季が訪れることろから物語は始まります。説話集を作るために訪問した成季には二人の僧侶が同道していました。一人は浮かぬ顔をした少年僧侶”明けの明星”。もう一人は仏師として名高い運慶です。昔の悪行を悔いて、自ら出頭した小殿は、老年を一人寂しく暮らしていました。その侘しい賤家を訪ねてくれた彼らに、盗賊時代の逸話を謎かけにして語ることにしたのです。

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物語は連作短編集になっています。若き日の小殿が起こした事件を一話ずつ語り聴かせます。また、橘成季と明けの明星は毎回登場するレギュラーですが、一話ごとに歴史上でも有名な豪華なゲストが登場するのも見どころです。

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じんかん/今村翔吾 <戦国時代>

主家を乗っ取り、将軍を暗殺し、東大寺大仏殿を焼き払う――世にいう「三悪」をやってのけた男、松永久秀。戦国の梟雄と呼ばれ、悪名高き武将として語られてきた彼の半生を、直木賞作家・今村翔吾が骨太の筆致で描いた歴史巨編です。悪人か、それとも時代の申し子か。固定観念を覆す久秀像に出会える一冊!

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今村翔吾さんの『茜唄』と比べると、武士という存在の捉え方が対照的でした。松永久秀の出自からして、独創的でしたが、私のお気に入りは甚助です。

黒牢城/米澤穂信 <戦国時代>

荒木村重が立てこもった有岡城を舞台に巻き起こる事件を、幽閉された黒田官兵衛が解き明かす連作ミステリ。歴史小説でありミステリ小説でもある傑作です。

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歴史小説としてもミステリ小説としても傑作なのですが、土牢に幽閉されている描写が怖がりの私には恐ろしかったです。それでも結末が気になり過ぎて読了した一冊。

レオン氏郷/安部龍太郎 <戦国時代>

織田信長に見出され、烏帽子親となってもらうばかりか娘婿にまでなった蒲生氏郷。信長が目指した「世界と渡り合える日本」の実現に向けて、氏郷は若くして才覚を発揮していきます。千利休に茶を学び、キリスト教を信仰した国際派の武将――。時代の先を見据えた麒麟児の生涯を、グローバルな視点で描き出した物語です。

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あの信長が烏帽子親となり、娘婿に選ぶほどの逸材です。前半の胸のすくような活躍ぶりは、純粋に読み物として楽しめました。そして本能寺の変以降、己の立身出世だけを目論む武将たちとは一線を画し、信長の夢を継ぐことだけを目指していく氏郷の姿には、清々しさを感じずにいられません。最後の場面は胸に迫るものがあり、葉室麟さんの解説を読んで、さらに作品への理解が深まりました。

成り上がり弐吉札差帖/千野隆司 <江戸時代>

理不尽な侍のせいで両親を亡くし、天涯孤独の身で奉公する弐吉は、奉公先の札差で辛い日々をおくります。武家社会では仇である侍は強大で恐ろしい存在。しかし、札差という仕事は、金の力で侍と渡り合うこともできるのです。そんな小僧の弐吉が、知恵と根性で成り上がっていくサクセスストーリーです。

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時代小説としてもお仕事小説としても、爽快感あふれる物語です。続巻が出るのを待ち遠しく読み進めました。堂々の完結とはいえ、六冊で終わってしまったのが寂しい。もっと続いてほしかったお気に入りのシリーズです。

⇒「成り上がり弐吉札差帖」シリーズに興味のある方はこちら

刀と傘/伊吹亜門 <江戸時代・明治時代>

慶応三年、新政府と旧幕府の対立に揺れる幕末の京都で、若き尾張藩士・鹿野師光は一人の男と邂逅します。名は江藤新平。後に初代司法卿となり、近代日本の司法制度を築く人物です。二人の前には、時代の転換点ゆえに起きる事件が次々に待ち受けます。維新志士の怪死、密室状況で発見される刺殺体、処刑直前に毒殺された囚人。維新から明治の世へと移る動乱の時代を背景として、二人の名探偵が不可解な事件の謎を解き明かす連絡短編集です。

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江藤新平は実在の人物です。私は歴史に疎くてその偉業を知りませんでした。本作がきっかけで江藤新平に興味を持ち、留守政府、明治六年政変などを知るきっかけになりました。物語の中でも、江藤新平はなんとも魅力的な人物に描かれています。

イクサガミ 天/今村翔吾 <明治時代>

侍の武だけでは生きていけない明治の世。大金を得る機会を与えるとの怪文書によって、日本中から強者たちが京都の寺に集められます。そこから命と大金を賭けた東京行が開始します。剣客・嵯峨愁二郎は十二歳の少女・双葉を助け、ともに道を進みます。明治を生きた侍たちのデスゲームシリーズ!

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侍たちの死闘を描いたザ・エンタメ小説です。愁二郎と双葉だけでなく、ゲーム参加者各々の生い立ちや大金が必要な事情なども詳細に描かれ、感情移入しながら一気読みしました。激動の明治維新を越えても続く混乱した時代背景がぐっと胸に迫る作品。

アイスクリン強し/畠中恵 <明治時代>

舞台は明治23年の東京。築地の居留地で育った皆川真次郎が、西洋洋菓子屋・風琴屋を開きます。店には甘い菓子を目当てに幼馴染の旧幕臣である「若様組」がやってきては、騒動を持ち込みます。明治という捉えどころのない不可思議な時代のワクワク感と急転した世の中の理不尽さ、先が見通せないからこその若者たちの青春をポップで明るく描いた爽快感あふれる作品でした。本格派ミステリというより、謎がふんわり漂うような連作短編集です。

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とにかく登場人物が全員魅力的でした。江戸の名残の漂う中で西洋菓子作りと語学が得意な真次郎。機転が利いて家柄も良いけれど、お金のない長瀬。成金の娘で袴姿で女学校に通う沙羅。他にも、若様組に無理難題を吹っ掛ける、沙羅の成金の父親。若様組の中でも抜群に容姿に優れているのに、乱暴者で危険な男、園山。などなど、主人公級の登場人物がひしめき合う物語です。

人魚は空に還る 帝都探偵絵図/三木笙子 <明治時代>

「しずくは空に昇ってみたい」富豪の婦人に売られてゆくことが決まった見せ物小屋の人魚が、最後に口にした願いは観覧車に乗ることでした。しかし観覧車の頂上で人魚はしゃぼん玉の泡のように消えてしまいー(表題作「人魚は空に還る」)。風のように身軽で変装の名人、そして鮮やかな盗みっぷりで世間を風靡する怪盗ロータス。予告状に示された次の狙いは大邸宅の主人が集めた洋画でしたー(「怪盗ロータス」)。明治の世に生きる心優しき雑誌記者と超絶美形の天才絵師、ふたりの青年が贈る帝都物語。

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私たちの常識では、名探偵の代名詞となっているホームズですが、明治時代を舞台として、リアルタイムでシャーロックホームズの翻訳を楽しみにしているという設定にびっくりしました。確かにコナン・ドイルが雑誌に掲載している時代に生きていたら、礼のように続きが待ち遠しかっただろうと思います。よくぞこんな設定を思いついたものだと脱帽するばかりです。

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