ワカタケル大王の血塗られた治世から、平安末期の本格ミステリ、人情時代小説、日本の神様解剖図鑑、そしてラムセス2世の快進撃第3巻まで——4月も好奇心の赴くままに読み耽りました。源頼朝の少年時代を舞台にしたファンタジーという思わぬ掘り出し物にも出会えた、充実の読書月間でした。今月読んだ本を順番にご紹介します。
蝶として死す/羽生飛鳥
1183年、木曾義仲軍が平家を破って都入りした。平清盛の異母弟・平頼盛は一門と決別し都に留まるが、義仲から「首のない五つの屍の中から恩人を特定してほしい」という難題を持ちかけられる。平清盛、源頼朝、北条時政——乱世の権力者たちと対峙しながら、推理力を武器に生き抜いた頼盛の生涯を描く連作ミステリ集。第15回ミステリーズ!新人賞受賞作「屍実盛」ほか全5編。

平安末期という時代背景がとにかく好きなので、清盛、義仲、頼朝、北条時政と豪華な顔ぶれが毎回登場するだけでテンションが上がります。中でも平清盛のヒールっぷりは貫禄と因縁においてダントツで、登場するたびに圧倒されました。短編の中では「屍実盛」がお気に入りです。タイトルにもなっている「蝶として死す」という頼盛の生き様にはグッと胸に来るものがありました。そして読み終えてふと気づいたのですが——この平頼盛、もしかして2月に読んだ『歌人探偵定家』の保盛の父親でしょうか。だとすれば、シリーズをまたいだつながりに思わずニヤリとしてしまいました。
太陽の王ラムセス3/クリスチャン・ジャック
ファラオとなって4年、27歳の青年王ラムセスは類まれなる力で民から深く敬愛されていた。しかし平和は長く続かない——西アジアの強国、宿敵ヒッタイトがついに牙をむく。歴史に名高い死闘の幕が開ける、怒涛の第三巻。

今回はアーシャの回、と言いたくなるほど印象的な活躍を見せてくれました。それにしても宮廷内の獅子身中の虫の多さといったら——読みながら「これで大丈夫かエジプト!」と何度心の中で叫んだことか。裏切りに次ぐ裏切りにハラハラしっぱなしで、ある場面では思わず声が出そうになりました。織田信長やナポレオンと違って、古代エジプトの史実は馴染みが薄い分、次の展開がまったく予想できないのが最大の面白さです。知らないからこそ、純粋にワクワクできる——古代ロマンの醍醐味がぎゅっと詰まったシリーズです。こういう物語がもっと増えてほしいと切に思います。
閻魔の世直し 善人長屋/西條奈加
「善人長屋」と呼ばれる千七長屋。差配も店子も表向きは堅気のお人好し揃いだが、実は裏稼業を営む悪党だらけ。そこへ「閻魔組」と名乗る三人組が裏社会の頭衆を次々と襲う事件が発生する。同心の目を潜りながら、長屋の面々が裏稼業の技を尽くして閻魔組の正体に迫る——痛快でどこか人情溢れる江戸時代小説。

「ただの人情もの」と思って読み始めると、いい意味で裏切られます。謎解きの構造がしっかりしていて、ミステリとしても一級品でした。善人のふりをした悪党たちが主役という設定の面白さもさることながら、物語が進むにつれて登場人物たちの人間味がじわじわと滲み出てくるのが堪りません。閻魔組との対決の行方もさることながら、お縫と文吉、そして長門をめぐる人間関係の機微に、最後まで一喜一憂させられました。爽やかな読後感の中に、ほんの少しの切なさが残る——そんな絶妙な幕引きがこのシリーズの魅力です。
ワカタケル/池澤夏樹
時は5世紀。大王アナホが殺され、弟のワカタケルは王位に最も近い兄たちを手にかけ、豪族をねじ伏せて自ら大王の座についた。血に塗れた治世の始まりだった——。豊かな自然と神々とともに生き、未来を見る力を持つ女たちと國を束ねたワカタケル大王の生涯を描く、古代日本の大河小説。

主人公に感情移入して血沸き肉躍る、というタイプの物語ではありません。ワカタケル自身が大王になるために兄のクロヒコとシロヒコ、従兄弟をためらいなく次々と手にかけていくのですから。それでもページをめくる手が止まらないのは、古事記や日本書紀に記される5世紀という捉えどころのない時代を、文学として鮮やかに書き表しているからだと思います。イザナギ・イザナミからアマテラス、カムヤマトイワレビコへと連なる神話と、國の成り立ち、そして歴史がひとつの物語の中でつながっていく感覚は、これまで読んだ小説ではなかなか味わえなかったものでした。ありそうでなかった一冊、という言葉がこれほど似合う作品もそうありません。
日本の神様解剖図鑑/平藤喜久子
天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)からイザナギ・イザナミ、アマテラス・スサノオ、大国主命、そしてカムヤマトイワレビコへ——日本の神々の個性と系譜を完全図解した一冊。神様のご利益の起源はもちろん、日本の歴史と日本人の宗教観までが見えてくる、古代神話の入門書です。

日本の神話はとにかく登場人物が多く、血縁関係も複雑で、読み始めるとすぐに混乱してしまいがちです。この本はそんな悩みに応えてくれる一冊で、天之御中主神を起点とした系譜の流れがイラスト入りでわかりやすく整理されていて、混乱しがちな血縁関係や国生みの流れがすっきりと頭に入ってきました。『ワカタケル』と同時期に読んだことで、神話と歴史のつながりをより立体的にイメージできたのも収穫でした。日本の古代神話に興味はあるけれど何から読めばいいかわからない、という方にまず手に取ってほしい一冊です。
⇒古代日本を舞台にしたファンタジー小説に興味のある方はこちら
あまねく神竜住まう国/荻原規子
平治の乱で伊豆に流された源頼朝は、まだ十代の少年だった。土地の豪族にうとまれ、命さえ狙われる日々の中、かつて頼朝の命を不思議な方法でつなぎとめた笛の名手・草十郎と、妻の舞姫・糸世が運命に引き寄せられるように現れる。土地神である竜と対峙しながら、伊豆の地に根を下ろしていく少年頼朝の姿を描く、歴史×ファンタジー小説。

後に平家を滅ぼし鎌倉幕府を開く源頼朝も、伊豆に流された少年時代は、父も周囲の人々も失い、自分に存在価値を見出せずにいた一人の若者でした。冷徹な為政者のイメージとはかけ離れた、生きる気力を失った少年の姿に、思わず胸が痛くなります。そんな頼朝が草十郎と糸世との日々の中で少しずつ気力を取り戻し、大蛇の呪いや土地神との対峙を経て成長していく——歴史小説としてもファンタジーとしても読み応えのある一作です。読み終えたあと、あまねく神竜が住まうこの国がじんわりと愛おしくなりました。なお、同じ著者の『風神秘抄』を先に読んでおくとより楽しめるようです。


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