成り上がり出世奮闘記/「成り上がり弐吉札差帖」千野隆司

小説

なにも考えず、スカッとした気分になりたくて購入した一冊。期待を裏切らない爽快感に、シリーズを一気読みしました。続巻が待ち遠しいおすすめシリーズです。

あらすじ

幼い頃、侍の狼藉で両親を失った弐吉は、札差「笠倉屋」で奉公しています。憎い仇である侍ですが、町人の弐吉からすれば、彼らの社会的優位さは絶大です。しかし、そんな侍と銭を武器に渡り合う札差家業に弐吉は面白さを感じます。ライバルの嫌がらせや侍の理不尽な仕打ちに耐え、弐吉は、知恵と根性で両親の仇討ちと成り上がりを目指していくのです。

登場人物

  • 弐吉・・・札差「笠倉屋」の小僧。幼い頃に侍の狼藉で父親を殺され、母親とも死別し、天涯孤独となった青年。両親の敵討ちを心に秘めながら、知恵と根性で困難に立ち向かっていく。
  • 金左衛門・・・笠倉屋の主人でやり手の札差。奉公人から婿に入ったため、妻と義母に振り回される。
  • 清蔵・・・笠倉屋を支える番頭。
  • 貞太郎・・・笠倉屋の跡取り息子。商売への興味が薄く、遊んでばかりいる放蕩息子。
  • 猪作・・・笠倉屋の手代。弐吉の能力を恐れ、嫌がらせをする。
  • お文・・・笠倉屋の仲働きの女中。清蔵とは遠縁の間柄。
  • お浦・・・小料理屋「雪洞」の娘。いつも弐吉に飴玉をくれる。
  • 冬太・・・同心の手先

おすすめポイント<札差という仕事>

現代人には札差という仕事は馴染みがありません。江戸時代の武家は給与を現金でなく米(禄米)で受け取っていました。米は米問屋に運んで換金する必要があります。武家にとって慣れないこれらの仕事を代理で行い手数料を得るために登場したのが、札差でした。

ですが札差の仕事はそれだけではありません。経済の中心が武士から商人に移るにつれて、武家の暮らしは困窮していきます。札差は、そんな彼らに銭の貸し付けを行います。場合によっては、何年も先の禄米を担保に貸し付けることさえありました。

社会的な立場としては断然上位に君臨する武家に対し、札差は銭の力で渡り合うことができたのです。武士を両親の仇とする弐吉は、そんな札差として仕事に魅力を感じ、一人前に成長することを目指すのです。

おすすめポイント<魅力的な登場人物>

このシリーズの魅力はなんといっても登場人物です。主人公の弐吉はもちろんですが、脇を固める面々も粒だっています。まず、弐吉の奉公先である「笠倉屋」の主人・金左衛門と番頭・清蔵の仕事ができるコンビ。そして放蕩息子の貞太郎と、貞太郎の腰ぎんちゃくの猪作。貞太郎は彼を可愛がる母親と祖母の力を使って問題ばかり起こしますし、猪作は弐吉への嫌がらせを繰り返し、しくじりをさせようと画策します。そこにそっと手を差し伸べるお文さんと飴玉を口に突っ込んでくれるお浦ちゃん。

これだけでも十分お腹いっぱいな顔ぶれですが、そこに冬太を筆頭に毎度事件に関わるメンバーややっかいな武家たちも登場します。これで面白くないわけがありません。

成り上がり弐吉札差帖/シリーズ第1巻

第1巻では、小僧の弐吉が猪作や貞太郎からの理不尽な仕打ちに耐え、持ち前の機転で困難を跳ね返す姿から始まります。ある日、猪作の嫌がらせで帰りが遅くなった弐吉は人殺しの現場に遭遇します。この事件の容疑者に笠倉屋の札旦那(札差の顧客)が浮上したことで、貸した金の回収を案じた主人から、弐吉は真相を探ることを命じられます。

事件をきっかけに小僧から手代への昇格を目指す弐吉。猪作の妨害や武家の理不尽さにハラハラしながらも、一番下っ端から始まる成り上がりのスタートに爽快感が抜群で、一気読みしてしまうこと請け合いの一冊です。

成り上がり弐吉札差帖・貼り紙値段/シリーズ第2巻

第2巻では、笠倉屋の放蕩息子、貞太郎が問題を起こします。札差にとって商いを左右する米の公定価格。その極秘情報である貼り紙値段を百両で事前に教えるという怪しい儲け話に若旦那が乗ってしまいます。しかも百両を運送中の猪作が何者かに襲われ、賄賂を奪われてしまうのです。

素直な読者としては猪作と貞太郎の失敗に溜飲が下がる思いですが、笠倉屋にとっては店の一大事。百両を秘密裏に取り戻すよう命じられた弐吉は、猪作らの恨みを買いながも探索を開始します。今回は、消えた百両の謎を追う怒涛の展開に加え、父の仇の手掛かりにも迫り、やっぱり一気読み必至の一冊です。

成り上がり弐吉札差帖・公儀御用達/シリーズ第3巻

第3巻では、父の死にまつわる疑惑の相手に弐吉が迫ります。そこに公儀御用達の品に関わる怪しい動きが見え隠れします。この巻の主テーマは敵討ちですが、やはりいつもの面々も問題を起こしてくれます。放蕩息子の貞太郎は常磐津の師匠を妊娠させてしまいますし、猪作はやっかいな武家の対応を弐吉に押し付けたりと、相変わらずの嫌な主従っぷりを発揮します。

母親の過保護に甘える放蕩息子や、面倒な客の相手を押し付ける同僚など、現代社会にも通じるあるあるがいっぱいで、江戸時代なのにお仕事小説として共感してしまうストーリーです。さらに、ちょっと気になるお文さんの縁談話も浮上して、三冊目なのにまったく飽きることなく一気読みしてしまう一冊でした。

成り上がり弐吉札差帖・棄捐令(一)/シリーズ第4巻

札差の懐事情を役人が探り始め、笠倉屋にも連日調べが入ります。番頭の清蔵と話した弐吉は、武家の困窮具合をみかねた幕府が、札差にとって不利な触を出すのではないかと危機感を抱きます。金利の引き下げか、借金の一部帳消しか・・・。店を守るため、弐吉はどうにかして触の内容を調べようと動きます。

第4巻はまさにお仕事メインの内容になっています。タイトルに堂々と「棄捐令」と銘打っているのですが、浅学のため棄捐令について知りませんでした。でも、知らないからこそ、札差にとって非常に理不尽な内容なのだろうと推察しながら、弐吉と一緒に触の内容を推測しながら読み進める楽しさがありました。

現代人も税金が高いなあとぼやきながら日々を過ごしますが、やはり江戸時代は別格に不条理なことがまかり通るのです。その不条理を弐吉がどうやって乗り越えるのか、というところでなんと次巻へ続きます。(一)とタイトルに入っているのに嫌な予感がしていましたが、次巻の刊行が待ち遠しくて仕方がない一冊です。

成り上がり弐吉札差帖・棄捐令(二)/シリーズ第5巻

江戸の札差業界を大きく揺るがす”棄捐令”がついに発布されます。6年前までの借金帳消しに加え、利息も大きく下げることに。閉店に追い込まれる札差が相次ぐ中、弐吉の機転で笠倉屋は少ない損失で持ちこたえていました。しかし、大口金主(出資者)からの出資を断る書状が届き、またもや店の存続危機が迫ります。

第5巻も引き続き棄捐令です。ついに明らかになった公儀の御触れ。歴史ではこんな御触れが出たのかと覚えるだけですが、当時の札差にとっては完全に理不尽な後出しジャンケンです。借金をチャラにする命令なんて上手くいくはずがないと思いながら読んでいると、案の定、札差の閉店や貸し渋りが・・・。いつの時代も為政者の命令って簡単には上手くいかないもの、かつ庶民は振り回されるものだと実感しながら読み進めました。

店の危機にも相変わらずな跡取り息子の貞太郎。それに比較して、弐吉がどんどん店の中核として成長している姿が読んでいて楽しい一冊です。

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