田辺聖子さんのエッセイに背中を押されて、ずっと気になっていた『平家物語』にとうとう挑戦しました。
「今さら古典なんて」と思いつつ、まずはやさしい解説書から。
次に原文の一部が紹介されているビギナーズクラシック、そして小説へとステップアップ。
平家物語を軸に、義経や範頼、吾妻鏡の源氏サイドの視点、さらには関連作品まで手を広げるうちに……気づけば、完全に源平沼へ!
平家目線、源氏目線、それぞれの武将の目線で同じ時代を読み比べる面白さは格別でした。
“武士=鎌倉時代以降”という思い込みをくつがえす発見の連続。
時代を越えて心を動かす、これぞ古典の力。高校時代の自分に読ませたい一冊ばかりです。
眠れないほどおもしろい平家物語/板野博行
高校の古典の授業で『祇園精舎』や『敦盛の最期』など印象的な場面を断片的に学んだ方も多いと思います。この本は、そうしたエピソードをひとつの流れとしてつなぎ、平家物語の世界を“全体で”理解できるようにしてくれます。
ガイド役は耳なし芳一。やさしく語りかけるような文体で、古典が苦手な方でも無理なく読める一冊です。文章は少しくだけていますが、入門書としてはとても親しみやすく、平家物語の入口にぴったりでした。
- 平忠度・・・平家都落ちの前に師匠である藤原俊成に和歌を託した歌人
- さざなみや 志賀の都は あれにしを むかしながらの 山ざくらかな
- ゆきくれて 木のしたかげを やどとせば 花やこよひの 主ならまし
- 平維盛・・・平家一門随一のイケメンだけど、戦には弱い。その容姿は、次のとおり
- 今昔見る中に、ためしもなき『建礼門院右京太夫集』
- 容顔美麗、尤も歎美するに足る『玉葉』
- 六代・・・維盛の子息。源平合戦後、頼朝より殺されそうになり、文覚が奔走する
- 後白河院・・・頼朝に「日本国第一の大天狗」と罵られた権謀術数の政治家
- 保元の乱、平治の乱では平清盛の力で乗りきる
- 清盛の死後は、源氏に加担して平家を滅亡させる
- 院宣を巧みに発して、義仲、義経を討たせる
- 和歌の実力はないが今様狂いで、「梁塵秘抄」を編纂した

“平家は平氏の中の一門であって、平家=平氏ではない”。
そんな基本から始まるこの本、読みやすいのにしっかり深いです。
読んでいて思ったのは、源氏は現実的な戦う人たち、平家は都の雅(みやび)を大切にする風流人という対比がくっきりしていること。
頼朝が平家を容赦なく滅ぼしたのに対し、清盛は女性に懇願されて、義経や頼朝を助けてしまう。
その甘さが一門の破滅を呼ぶけれど、そこにこそ清盛の人間味があり、平家物語が長く愛されてきた理由なんだと感じました。
眠れないほどおもしろい吾妻鏡/板野博行
吾妻鏡に関しては、古典の授業で聞いたことがあったようなあやふやな記憶しかなく、いつの時代なのかも定かではありませんでした。読んで吃驚、北条氏の血で血を洗う歴史書でした。同じ著者の平家物語と合わせて読むと、物語がリンクして二倍楽しめます。
- 源実朝の暗殺・・・三代将軍実朝が鶴岡八幡宮で、二代将軍頼家の子の公暁に暗殺される。実朝の首が行方不明とか、黒幕説など諸説あり。また、実朝は和歌の名人として有名 世の中は 常にもがもな 渚こぐ 海士の小舟の 綱手かなしも
- 梶原景時の讒言・・・義経を讒言し、死へ追いやった梶原景時。彼の讒言に辟易していた六十六人もの御家人からの連判状により失脚した。

平家が貴族らしい雅を貴んで亡んだのと比較すると、源氏はなんとも血生臭い。なりふり構わない暗殺や讒言、凄惨な殺戮など、新たな武士の世への時代の流れを感じました。平家物語と比較して読むと一層深みがあります。
平家物語/角川書店編
平家物語の解説だけでなく「祇園精舎の鐘の声~」と、原文の雰囲気も味わいたくて手に取った一冊。贅沢にも名場面だけをピックアップして原文と解説を併記してくれています。原文で平家物語のもの悲しさを味わいつつも、平易な解説で古典の理解が深まる一粒で二度おいしい本でした。

原文ではあるものの、平家物語は琵琶法師の語り言葉だからなのか、比較的内容を理解しやすい文章になっています。「那須与一」や「先帝御入水」、「知盛の最期」などはやっぱり原文で読みたい!!巻末には平家の落人部落の情報まで載っていて、平家ファンにならずにはいられません!
茜唄/今村翔吾
平清盛の最愛の子として知られる平知盛。
巨星・清盛を失い、平家が没落の道をたどるなかで、武士の生き方を模索しながら一門を支え続けた知盛の生き様が胸を打ちます。
直木賞作家・今村先生が、その生涯を、平家一門を、熱く描いた傑作です。
- 平知盛・・・平清盛の四男。”相国最愛の息子”と言われる才気を持つ。
- 希子・・・知盛の妻。貴族らしからぬ奔放さで、知盛と相思相愛。
- 平教経・・・知盛を「兄者」と慕う、”王城一の強弓精兵”と謳われる武者。

最初のページから最後まで、ただただ圧巻!
知盛はもちろん、教経や知章、重衡、木曾義仲まで、誰もが綺羅星のように眩しく輝いています。
そして今村先生の筆が描く『平家物語』は、もちろんただの史実の再現ではなく・・・。
読み終えたあと、しばらく放心するほどの余韻。この一冊で、すっかり平家ファンになってしまいました。今年読んだ小説の中でも、間違いなくベスト3に入るお気に入りです!
義経じゃないほうの源平合戦/白蔵盈太
源範頼は普通の感性のいたって普通の武将。ただひとつ普通じゃないのは、兄は政略の天才・源頼朝、弟は戦の天才・源義経だったこと。非凡な兄と弟に挟まれながら、平凡ながら戦の糧食調達に精を出し、地道で堅実に生きる範頼の物語。
- 源範頼・・・頼朝の弟で義経の兄。怖い兄と戦上手の弟に挟まれて目立たない。兄への報連相は欠かさない。
- 源頼朝・・・源氏の棟梁。政治力は抜群だが、もしかして戦は苦手かも。
- 源義経・・・戦の天才だが、政治的な駆け引きに滅法弱い。無邪気過ぎる一面あり。
- 天野遠景・・・源氏の武将。範頼の理解者で相談相手。
私は、頼朝兄さまと義経という、才能にあふれ癖が強すぎる二人の兄弟の間に生まれついた自分の運命を、げっそりとした疲労感とともに呪った。
「義経じゃないほうの源平合戦」白蔵盈太、文芸社文庫 2022年 p171

源範頼という名前、確か『平家物語』や『茜唄』で義経軍の一員として出てきたような……その程度の薄い記憶しかない武将でした。そんな脇役中の脇役を主人公にするという、まずその発想に「なるほど!」と膝を打ちました。
そして実際に読んでみると、天才兄弟の間で苦労する範頼の姿が妙にリアルで、どんどん感情移入していきます。歴史小説といえば英雄譚を期待しがちですが、特別な才能を持たない「普通の人」が見た源平合戦という切り口が新鮮で、思わず自分を重ねてしまう面白さがありました。



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