きっかけは、あまりにも有名なあの少女漫画でした。古代エジプトを舞台にしたその物語に引き込まれたのをきっかけに、入門書、歴史小説、ミステリと、気づけばジャンルを問わず手が伸びていました。ファラオの栄光、神々の物語、謎に包まれた遺跡——知れば知るほど、エジプト展などの展覧会も何倍も楽しめるようになります。このページでは、古代エジプトにまつわる本を随時紹介していきます。まずは、多くの人を古代エジプトの世界へ誘ってきた、あの名作漫画から。
王家の紋章/細川智栄子・芙~みん
三千年の時空を超え、現代の娘キャロルが誘われた古代エジプトの世界。勇猛なファラオ・メンフィスとの運命の出会い、宮廷の陰謀、異国との戦い——長年読み継がれてきた、少女漫画の金字塔です。
- キャロル・・・考古学を学ぶ現代の娘。古代エジプトに誘われ、神の娘と慕われる。
- メンフィス・・・若きエジプトのファラオ。
- アイシス・・・メンフィスの姉。メンフィスを愛する。
- イズミル・・・ヒッタイトの怜悧な王子。

個人的な古代エジプト沼の入口は、まぎれもなくこの作品でした。キャロルをめぐる恋物語はもちろん面白いのですが、この漫画を起点にエジプト本を読み進めていくと、思わぬ発見が次々と出てきます。「あの場面でメンフィスが被っていた冠はこれか!」「キャロルが目にしていた遺跡はここか!」「イズミル王子が叫んでいた女神の名前はこれか!」——物語の中の場面と、入門書や歴史小説の知識がぴたりとつながる瞬間の気持ちよさといったら格別です。エジプト展などの展覧会に足を運ぶ前にこの作品を読んでおくと、展示の見え方がまるで変わります。恋愛漫画としても古代エジプト入門としても楽しめる、文句なしの一押しです。
太陽の王 ラムセス1/クリスチャン・ジャック
古代エジプト第十九王朝。王セティ一世のもと帝国の再建を目指す中、次代の王座を争うのは実の兄弟——勇猛で情熱的な第二王子ラムセスと、狡猾な兄シェナル。忍び寄る魔の手、降りかかる過酷な試練。エジプト史上最も偉大なファラオと呼ばれたラムセス二世の、波乱万丈の青春を描く大河歴史ロマン全5巻の第一作。
- ラムセス・・・セティ王の第二王子。勇猛で情熱的。
- シェナル・・・セティ王の第一王子。ラムセスの兄。狡猾で肥満体。
- イシス・・・貴族出身の美しい娘。シェナルに求婚されるが、ラムセスを愛する。
- ネフェルタリ・・・貧しい家出身の、聡明で魅力的な娘。
- アメニ・・・ラムセスの友。ラムセスの専属書記となる。
- モーゼ・・・ラムセスの友。ヘブライ人。
- セタオー・・・ラムセスの友。自然を愛する蛇遣い。
- アーシャ・・・ラムセスの友。貴族の息子で外交官となるが。

史上最も偉大なファラオとして名高いラムセス二世も、物語の出発点では到底王になれるとは思われていない境遇からのスタート。兄シェナルの狡猾さに翻弄されながら、青年ラムセスがどう昇り詰めていくのか——読むほどにワクワクが募ります。友人として登場するのが、書記のアメニ、蛇使いのセタオー、そしてヘブライ人のモーゼというのが心憎い。さらにトロイ戦争のヘレネまで顔を出すとなれば、歴史ロマン好きとしてはもう続きを読まずにはいられません。2月に読んだ古代エジプトの入門書の知識が活きて、背景をイメージしながら楽しめたのも収穫でした。
ファラオの密室/白川尚史
死んでミイラにされた神官セティは、死後の審判で心臓に欠けがあると告げられる。魂の彷徨を避けるため、セティはたった三日間だけ地上に舞い戻り、自らの死の謎を追うことに。さらに追い打ちをかけるように、密室状態のピラミッド玄室から先王のミイラが消失するという事件が発生する。タイムリミットが迫る中、ミイラの神官探偵が二つの謎に挑む、古代エジプト舞台の本格ミステリ。
- セティ・・・上級神官書記。王墓の崩落事故で命を落とす。欠けた心臓を探すため、ミイラとして蘇る。
- タレク・・・天才的なミイラ職人。セティの親友。先代ファラオやセティのミイラを手掛ける。
- カリ・・・奴隷の少女。生まれはハットゥシャ。
- アクエンアテン・・・先代のファラオ。エジプトの主神をアテンと定め、ほかの神々への信仰を禁止する。一年前に病死。
- マアト・・・真実を司る神。死者の心臓を秤にかけて審判を行う。セティの心臓には欠けがあり、秤にかけられないと告げる。

タイムリミットサスペンス、ファラオ、密室、ミイラ消失——これだけパワーワードが並ぶだけあって、三日間というカウントダウンの緊張感はしっかりハラハラドキドキさせてくれます。それでいて読後感がなんとも爽やかなのが、この作品の不思議な魅力です。セティとタレク、セティとイセシ、カリと彼女の両親といった人間関係が横軸として丁寧に描かれていて、ミステリとしての面白さと人情の温かさが絶妙に同居しています。古代エジプトの死生観や信仰が物語の根幹に組み込まれているので、エジプト好きにはたまりませんが、知識がなくても十分楽しめます。一風変わったミステリを探している方に、自信を持っておすすめしたい一冊です。
図解 眠れなくなるほど面白い 古代エジプトの話/河合望
ピラミッド建築の真実、ミイラ作りの驚くべき技術、最新CTスキャンで明らかになった新事実——いまだ謎に包まれた古代エジプト文明を、最新の考古学研究をもとにわかりやすく図解で解説する入門書。ピラミッドや神話だけにとどまらず、古代エジプト人の食事・住まい・労働の実態、信仰と死後の世界への考え方まで、他の入門書ではなかなか触れられないテーマを学術的裏づけとともに紹介しています。

まず驚いたのが、ファラオは「王」ではなく、神々と人との仲立ちをする存在だという点。神々が国を支配し、ファラオに求められたのは神の真理「マアト」を守り広めることだったとは——読み始めてすぐに、ほほうとうならされました。上エジプトと下エジプトの白冠と赤冠など、某有名な漫画や小説でなんとなく知っていた知識が、ちゃんとした裏づけとともに整理されていくのが気持ちよくて、するすると読み進められました。個人的には九柱神エネアドの図解が嬉しかった。神話部分はまだまだ奥が深そうで、次はもっと神話に特化した本にも挑戦してみたいと思っています。
天は赤い河のほとり/篠原千絵
高校入試に合格し、好きな人とのファーストキスまで果たした夕梨。幸せな日々の中、突然水たまりから伸びた手に引き込まれた先は——古代ヒッタイト帝国だった。現代へ帰還したい夕梨と、ヒッタイトの皇子・カイルとの恋、そして夕梨を生贄にしようとする皇妃との対立。古代オリエントを舞台にした少女漫画の名作です。
- 夕梨(ユーリ)・・・日本人の少女。生贄として古代ヒッタイト帝国に呼び寄せられる。
- カイル・・・ヒッタイト帝国の皇子。
- ナキア皇妃・・・ヒッタイト帝国のタワナアンナ(帝国第1の女性の称号)。カイルを殺すため、ユーリを生贄にしようとする。

古代エジプトを語るうえで欠かせない存在といえば、宿敵ヒッタイト帝国。エジプトを舞台にした映画や小説は数多くあっても、ヒッタイトにスポットを当てた作品はなかなかお目にかかれません。その意味でも、この作品はとても貴重です。文物や風土など、ヒッタイト帝国の世界観が丁寧に描かれているので、読んでいるだけで古代オリエントの知識がじわじわ身についていく感覚があります。もちろん物語としての面白さも十分で、現代に帰りたい夕梨とカイルの恋の行方、王妃との息詰まる対立と、ページをめくる手が止まりません。『王家の紋章』でエジプト沼にはまった方には、ぜひセットで読んでほしい一作です。


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