2026年2月の読書記録/江戸・エジプト・恋愛ファンタジー・恐竜ーー冬の終わりに読み耽った本たち

今月の棚

寒さが和らぎ始めた2月、ページをめくるたびに時代と場所をいくつも越えました。江戸の捕物帳に古代エジプトの入門書、ミステリ、歴史学の新書、恐竜学入門書、そして恋愛ファンタジーの長編まで。節操がないようにも見えますが、これが読書の醍醐味かもしれません。今月読んだ本の中からおすすめの作品をご紹介します。

歴史小説のウソ/佐藤賢一

歴史小説を読んで、「自分もこんなふうに生きよう」とか「この過ちを繰り返してはいけない」と思ってしまいます。なぜ私たちは、創作物の中に歴史の真実があると感じるのでしょうか。その秘密は、歴史と歴史学と歴史小説のもつれた関係にありました。

本モス
本モス

どうして歴史小説や時代小説、それも江戸以前を舞台にした作品に惹かれるのか。日頃からぼんやりと感じていた疑問に、本書は一つの答えを提示してくれました。読み終えると、正しいとか正しくないではなくて、自分で考えて自分なりの史観を持ちたくなりました。

損料屋喜八郎始末控え/山本一力

上司の不始末の責めを負って同心の職を辞し、刀を捨てた喜八郎。損料屋に身をやつし、与力の秋山や深川のいなせな仲間たちと力を合わせ、札差たちと渡り合います。田沼バブルのはじけた江戸で繰り広げられる息詰まる頭脳戦!

本モス
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主人公の喜八郎は、腕も立ち頭の回転も速い切れ者です。魅力的な主役に好感が持てるのはもちろんですが、この作品では敵役の札差たちも実に個性的。金持ちの嫌な部分を凝縮したような笠倉屋、駄目な二代目の典型である米屋、そして底の知れぬ人物として圧巻の存在感を放つ伊勢屋――。個性豊かな札差たちと喜八郎の頭脳戦は、チャンバラ中心の時代小説とは一味違う楽しさがありました

⇒札差に興味のある方はこちら

大人のための「恐竜学」/土屋健 著・小林快次・監修

「クビナガリュウや翼竜は恐竜ではない」「鳥は立派な恐竜である」「ブロントサウルスが図鑑から消えた理由」――子どもの頃に夢中になった恐竜の世界が、現代科学によってここまで塗り替えられていたとは。大人だからこそ虜になる知識が詰まった、恐竜入門の決定版。

本モス
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子どもの頃に観た恐竜映画やアニメと、現代科学で明らかになった姿との違いに、読みながら何度も「えっ、そうだったの!?」と声が出そうに。あの頃の常識が、ことごとく覆されていく快感とでも言えばいいでしょうか。「恐竜好きは子どものうちだけ」なんてとんでもない——むしろ大人になったからこそ、この面白さがわかる気がします。子ども時代の記憶を入口に、もう一度恐竜の世界へ踏み込んでみたい方に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

歌人探偵定家/羽生飛鳥

平家一門の生き残り・平保盛がある日、都の松木立でバラバラ死体に遭遇する。生首には紫式部の和歌が書かれた札が針で留められていた。そこに現れたのが、和歌を愛してやまない青年歌人・藤原定家。「和歌を汚された」と憤慨した定家は、死体を検分できる特異な能力を持つ保盛を巻きこんで事件解決に乗り出す——和歌の絡む五つの謎を描く連作ミステリ。

本モス
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エキセントリックな定家と、顔はいいのに何かと損な役回りの保盛というコンビが絶妙で、読み始めたらあっという間に引き込まれました。連作ミステリならではの、各話の謎が積み重なって最後に一つにつながる結末の気持ちよさもさることながら、鎌倉時代初期という歴史背景がミステリの舞台として実に巧みに活かされていて、読み応え十分。和歌の知識がなくても十分楽しめますが、少しでも興味のある方はさらに深く味わえる一冊だと思います

深川青春捕物控(ニ) 家族の形/東圭一

腹違いの兄・高柳新之助に才を認められ、岡っ引き・勝次郎の手先として江戸の事件に関わるようになった雄太。喧嘩での勘の良さを活かしながら少しずつ仕事を覚えていく中、深川を荒らし回る壺盗賊に襲われてしまう。命の危機に脳裏に浮かんだのは、若き侍の姿——。ただの同心であったはずの父に隠された謎、深川の危機、そして様々な「家族の形」。降りかかるすべてに真っ向から立ち向かう、青春捕物帳シリーズ第二作。

本モス
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すっかりお気に入りになったシリーズの第二作です。前作で個性豊かな面々の魅力にすっかり惚れ込んでいたので、再び彼らに会えるのが純粋に嬉しかった。今作では父の謎という新たな軸が加わり、物語に深みが出てきました。そして何より、勝次郎親分の娘・かよのペットが思わぬところで大活躍——思わず笑いがこぼれるシーンに、にやにやしながらページをめくってしまいました。深いことは考えず、とにかく楽しく読める。そんな直球のエンタメ時代劇として、今作も大満足の一冊でした。

ハヤディール戀記 上・下/町田そのこ

かつて神に嫁した王妃の伝説が残る王国ハヤディール。類稀なる「力」を宿す巫女エスタと騎士団長レルファンは、許されぬと知りながら惹かれ合っていた。しかし、エスタが神妃に選ばれたことから、互いに身を引くことを選ぶ。迎えた神妃祭の最中、エスタは何者かに攫われ、王宮では第一王女が毒殺される——。恋愛×ファンタジー×ミステリが交差する、著者の原点にして新境地のファンタジー長編。

本モス
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攫われた恋人の行方を必死に追う騎士の「現在」と、二人がゆっくりと恋に落ちていく「過去」が交互に描かれる構成が絶妙でした。過去パートで二人の距離が縮まるたびに愛おしくなり、現在パートに戻るたびに「早くエスタを見つけて!」と切なさが募る——気づいたらページをめくる手が止まらなくなっていました。恋愛ファンタジーとしての王道の面白さに加え、エスタ自身が抱える秘密がミステリの要素として絡んでくるのも見事で、盛沢山なのに散漫にならない筆力に唸らされました。王道が好きな方にも、ひとひねり欲しい方にも、自信を持っておすすめできる一冊です。

赤絵の桜/山本一力

わけあって刀を捨て、損料屋を営む元武士・喜八郎。江戸で大人気の湯屋の裏側を探るうち大掛かりな犯罪に気づく表題作、喜八郎と札差・伊勢屋四郎左衛門が同じ詐欺に遭う「逃げ水」、密かに想い合う喜八郎と老舗料亭の女将・秀弥に仕掛けられた粋な悪戯を描く「初雪だるま」——情に厚く男気溢れる喜八郎が、深川を舞台に権謀術策の限りを尽くして渡り合う連作時代小説シリーズ第二弾。

本モス
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「伊勢屋で始まり、伊勢屋で終わる」と言っても過言ではない一冊でした。シリーズものの敵役というと、どこか記号的になりがちなものですが、本作の伊勢屋四郎左衛門は違います。息子を失った心境や、商売への確固たる信条が丁寧に描かれていて、読み終わるころにはなんだかこの人のことがちょっぴり好きになっていました。

図解 眠れなくなるほど面白い 古代エジプトの話/河合望

ピラミッド建築の真実、ミイラ作りの驚くべき技術、最新CTスキャンで明らかになった新事実——いまだ謎に包まれた古代エジプト文明を、最新の考古学研究をもとにわかりやすく図解で解説する入門書。ピラミッドや神話だけにとどまらず、古代エジプト人の食事・住まい・労働の実態、信仰と死後の世界への考え方まで、他の入門書ではなかなか触れられないテーマを学術的裏づけとともに紹介しています。

本モス
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まず驚いたのが、ファラオは「王」ではなく、神々と人との仲立ちをする存在だという点。神々が国を支配し、ファラオに求められたのは神の真理「マアト」を守り広めることだったとは——読み始めてすぐに、ほほうとうならされました。上エジプトと下エジプトの白冠と赤冠など、某有名な漫画や小説でなんとなく知っていた知識が、ちゃんとした裏づけとともに整理されていくのが気持ちよくて、するすると読み進められました。個人的には九柱神エネアドの図解が嬉しかった。神話部分はまだまだ奥が深そうで、次はもっと神話に特化した本にも挑戦してみたいと思っています。

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