年の初めに出会った本たち。お気に入りの作家のエッセイ、血沸き肉躍る歴史小説、数学へのチャレンジ、そしてファンタジーとミステリの傑作——どれも面白く、充実した読書月間になりました。今年もいろんなジャンルに挑戦していこうと、改めて思えた一ヶ月です。
「思考」を育てる100の講義/森博嗣
2026年の読み始めにふさわしい一冊でした。タイトルには「100の講義」とありますが、著者のスタンスは「これが正解です」ではなく、「このように考えている人もいますよ」というもの。読者に答えを与えるのではなく、自分自身で思考するためのヒントを提示してくれます。新しい年の始まりに、思考の幅を広げてくれる良書です。
好きなのか嫌いなのか、自分はどんな人間なのか、そんなにはっきりわかっているのだろうか。僕は、はっきりしている人間というのは、つまりそれだけ「浅い」のだろう、と想像してしまう。はっきり言えば、「はっきりしている奴は馬鹿だ」と思う。
『「思考」を育てる100の講義』森博嗣、だいわ文庫 2014年 p79

森博嗣さんの本は、「考えること」をサボりそうなときの特効薬のような存在です。読むと「自分の頭で考える」という基本に立ち返らせてくれます。これからも折に触れて手に取り、考え続けることの大切さを思い出させてもらおうと思います。
じんかん/今村翔吾
主家を乗っ取り、将軍を暗殺し、東大寺大仏殿を焼き払う――世にいう「三悪」をやってのけた男、松永久秀。戦国の梟雄と呼ばれ、悪名高き武将として語られてきた彼の半生を、直木賞作家・今村翔吾が骨太の筆致で描いた歴史巨編です。悪人か、それとも時代の申し子か。固定観念を覆す久秀像に出会える一冊!
人間。同じ字でも「にんげん」と読めば一個の人を指す。今、宗慶が言った「じんかん」とは人と人が織りなす間。つまりはこの世という意である。
「じんかん」今村翔吾、講談社文庫 2024年 p127

今村翔吾さんの『茜唄』と比べると、武士という存在の捉え方が対照的でした。松永久秀の出自からして、独創的でしたが、私のお気に入りは甚助です。
悲観する力/森博嗣
「悲観=ネガティブで良くないもの」という思い込みに、一石を投じてくれる一冊です。本書では、悲観を単なる心配や諦めではなく、未来に備えるための思考法として捉え直します。著者自身が実践する悲観の具体的な手法も紹介されており、フェールセーフの考え方を身につけるのにぴったりの内容でした。

本書で「悲観とは何か」が明確に定義されたことで、つい楽観に逃げてしまいがちな自分の日常を見つめ直すきっかけになりました。ただ、理解することと実践することは別物。読んで納得はしたものの、実際に日々の生活で悲観的思考を取り入れるのは、なかなか難しそうだなと感じています。
直感を裏切る数学/神永正博
『ウソを見破る統計学』がすこぶる面白かったので、著者買いした一冊です。序盤の1章、2章は鼻歌交じりで読み進められたのですが、後半は難易度が急上昇して青息吐息。正直ついていけない部分も多々ありました。理解できないところは飛ばしながら、なんとか読了しましたが、久しぶりに頭をフル回転させた充実感がありました。完璧に理解できなくても、チャレンジする価値はあった一冊です。

平易な語り口で書かれているにもかかわらず、正直なところ理解できない部分も多々ありました。それでも数学の世界の端っこ部分を垣間見た気がして、不思議と満足感を得られた一冊です。特に「比率の魔術」「待ち行列の理論」「四色問題」といったテーマは興味深く、もっと深く学んでみたいと思わされました。
善人長屋/西條奈加
善人ばかりが住むと評判の通称「善人長屋」。しかし実態は、全員が裏稼業を持つ悪党たちの巣窟でした。そんな長屋に、ひょんなことから錠前職人の加助が住み始めます。根っからの善人で、人助けが生き甲斐の加助は、次々と面倒ごとを持ち込んでしまいます。悪党たちは渋々ながらも、それぞれの裏稼業の凄腕を活かして事件解決に手を貸すことに・・・。

自分たちを「悪党」と呼ぶ長屋の住人たち。しかし渋々ながらも加助の人助けに手を貸す姿を見ているうちに、とても悪党とは思えなくなってきました。故買屋の父親、美人局の兄弟、髪結い床の情報屋――魅力的な登場人物たちがそれぞれの裏稼業で培った凄腕を発揮する様子は痛快です。一話一話は短編ながら、どれも読みごたえのある物語でした。同じ著者の『金春屋ゴメス』も読みましたが、個人的にはこちらの方が好みです。
あれは子どものための歌/明神しじま
因縁のある旅人と8年ぶりに再会した料理人、飢餓に苦しむ国を救った謎の商人、不思議なナイフで自らの”影”を切り離した男。並行して語られる3人の話が終盤でひとつになり、驚愕の真相が浮かび上がる「商人の空誓文」など、5編を収録した連作短編ミステリ。

タイトルからミステリ要素のある可愛いファンタジーを想像して読み始めました。一作目「商人の空誓文」で、まさかのノワール・ファンタジーにミステリ要素が組み合わさっていることに驚き、二作目「あれは子どものための歌」で独特の世界観に引き込まれ、三作目「対岸の火事」のサスペンス展開にハラハラし、四作目「ふたたび、初めての恋」ではロジックとファンタジーの見事な融合にうっとり。そして最終話「諸刃の剣」で、すべての伏線が鮮やかに回収されます。連作短編でありながら、それぞれがまったく異なる趣向で楽しませてくれる、大満足の一冊でした。5作の中では「ふたたび、初めての恋」がお気に入り!
レオン氏郷/安部龍太郎
織田信長に見出され、烏帽子親となってもらうばかりか娘婿にまでなった蒲生氏郷。信長が目指した「世界と渡り合える日本」の実現に向けて、氏郷は若くして才覚を発揮していきます。千利休に茶を学び、キリスト教を信仰した国際派の武将――。時代の先を見据えた麒麟児の生涯を、グローバルな視点で描き出した物語です。

『名将言行録』の解説書で初めて知った武将、蒲生氏郷。あの信長が烏帽子親となり、娘婿に選ぶほどの逸材です。前半の胸のすくような活躍ぶりは、純粋に読み物として楽しめました。そして本能寺の変以降、己の立身出世だけを目論む武将たちとは一線を画し、信長の夢を継ぐことだけを目指していく氏郷の姿には、清々しさを感じずにいられません。最後の場面は胸に迫るものがあり、葉室麟さんの解説を読んで、さらに作品への理解が深まりました。
放課後の音符(キイノート)/山田詠美
放課後が大好きな少女たちが大人になるための恋愛小説8編。「私、彼に対して子供の手段を使いたくないの」とカナ。南の島の思い出を、ジントニックを飲みながら涙を流して喋ってくれたマリ。素敵な周囲の恋物語を眺めながら、少しずつ恋の勉強をしていく”わたし”の物語。

大学生の頃に初めて読んでから、もう何度目かわからないくらい読み返していますが、読むたびに切なくなる素敵な物語です。登場する女の子たちは、「自分で考える」ことを通じて少しずつ成長し、素敵な大人へと近づいていきます。きっと、考えることをやめてしまった人が「子ども大人」になってしまうんだろうな、と思わされます。久しぶりに手に取ったら、懐かしさと切なさが一度に押し寄せてきました。少女向けの物語ですが、いい年をした大人こそ読む価値がある一冊だと思います。
深川青春捕物控一父と子/東圭一
深川漁師町にある小料理屋「しののめ」の息子・雄太。母のあきは女手一つで育ててくれていた。ある日、常連であった同心の高柳新之助から己の御用聞きの手先にならないかと誘われる。雄太の父は、新之助の亡き父で、新之助は腹違いの兄であると告白され、信頼できる手下が欲しいというのだが。

深いことは考えず、とにかく日常を忘れて楽しめる作品でした。小太刀が得意で度胸のある雄太、船頭の三吉、そして記憶力抜群の茂二。個性豊かな若者たちが江戸の町で繰り広げる捕物劇は、読んでいて心が弾むエンタメ小説でした。



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