華麗なる女系一族の物語/「檜垣澤家の炎上」永嶋恵美

ミステリ

明治・大正の世にあって、檜垣澤の家に男はいらないと言わしめた華麗なる女系一族の物語。妾の子として引き取られた少女かな子が館で起こる不審な事件を踏み台に成長していく長編ミステリの大作。

登場人物

  • かな子・・・・檜垣澤要吉と妾の間に生まれた子。屋敷内の出来事に耳を澄ませる地獄耳。情報を武器に檜垣澤家で生き抜こうとする。
  • スヱ・・・・要吉の妻で「山手の刀自」と呼ばれる女傑。檜垣澤家の家と事業を取り仕切っている。底の知れない人物。
  • 花・・・・スヱの長女。スヱの跡継ぎとして事業を差配する。夫の辰市には実権がない。
  • 郁乃・・・・花の長女。花の跡継ぎだが、身体が弱い。
  • 珠代・・・・花の次女。自由奔放で華族と駆け落ち騒動を起こした。
  • 雪江・・・・花の三女。姉様ぶってかな子を可愛がる。
  • 初・・・・スヱの妹。檜垣澤家の隣に住む山名医師に嫁いでいる。
  • 西原・・・・山名外科の書生。檜垣澤家にも出入りし、かな子にちょっかいをかけるミステリアスな男。
  • 曉子・・・・華族の令嬢だが家が没落してしまった。かな子の親友。

あらすじ

母を火事で亡くしたかな子は自ら望んで檜垣澤家に引き取られます。父も亡くなると使用人からの嫌がらせも始まりますが、かな子は幼さを武器に周囲の噂話に耳を傾けたり、珠代や雪江に取り入ったりしながら強く生き抜こうとします。

マンモス
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使用人からの嫌がらせなんてまるで小公女のようですが、かな子は健気に耐えるのではなく、地獄耳で情報を得たり、「雪姉様、雪姉様」と雪江に取り入ったりと、決して無邪気な子ではありません。弱々しいヒロインでなく、力強くのし上がろうとする姿に共感しました。

ある夜、花の夫である辰市が不審な死を遂げます。かな子は現場である蔵で火事を発見するとともに怪しい男の後ろ姿を目撃しました。火事を発見した恩人として、かな子は使用人でなく、檜垣澤家の末席に加えられることになります。もちろん檜垣澤家の舵取りはスヱであり、次に花、その後は郁乃に引き継がれることが決まっています。それでも、檜垣澤要吉の血を引く自分にも相応の分け前があってしかるべき、スヱに独占させてなるものかと、かな子は誓います。

辰市の死の謎を巡って、かな子の周囲には西原というミステリアスな男が登場します。西原は、初の嫁ぎ先である山名外科の書生ですが、檜垣澤家にも頻繁に姿を現し、スヱとも交渉がある気配です。時にかな子に意味深な情報を与えたり翻弄したりと、西原は味方なのか敵なのか。かな子は西原の正体を探ろうとします。

政略結婚や軍との商い、上流階級での世渡りなど、檜垣澤一族の様々な秘密を巡って、かな子は強く成長していきます。

おすすめポイント

明治時代・大正時代の息吹を感じる作品

物語の舞台は明治から大正時代の横浜です。700ページを超える大作だけあって当時の文物や時代背景をこれでもかと描写してくれており、明治時代や大正時代の雰囲気を存分に味わうことができます。物語の背景として、恐慌・世界大戦・大逆事件・スペイン風邪なども登場し、歴史で習ったことを体験談として読むことができます。

マンモス
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巻末にずらりと並んだ参考文献リストには驚嘆しました。これだけの資料で深堀りしたからこそ、この物語が描けたのだと納得しました。明治時代、大正時代が好きな方には特におすすめです。

強い女性たちの物語

明治時代・大正時代は現代と比較にならないほど、女性が生きづらい時代でした。そんな時代の中にあって、強く生きる女性たちが非常に魅力的です。檜垣澤を取り仕切るスヱや花はもちろんのこと、婚家にあって実家に富をもたらす女性たち、もちろん四面楚歌の檜垣澤家でのし上がろうとするヒロインかな子も力強く開花していきます。

マンモス
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マンモスは、スヱとかな子が特に好きです。貧しい田舎出身で読み書きも出来なかったのに、「檜垣澤の家に男はいらない」とまで言わしめたスヱ。そんなスヱの背をみながら成長するかな子。二人の対峙するシーンは必見です。

時に畏れ、時に憎み、それでもかな子はスヱを見上げていた。弱気の虫に取り付かれそうになっても、闘志が消えることはなかった。いつの日かと思い続けてきた。

「檜垣澤家の炎上」永嶋恵美 2024年 p740

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