主人公は品行方正であるべきという概念を覆すダークヒーロー。時に犯罪行為に走るも、魅力溢れるキャラクターが登場するおすすめの小説です。
御子柴礼司シリーズ/「贖罪の奏鳴曲」中山七里
御子柴礼司は被告に多額の報酬を要求する悪徳弁護士。彼は十四歳の時、幼女バラバラ殺人を犯し少年院に収監されるが、名前を変え弁護士となった。三億円の保険金殺人事件を担当する御子柴は、過去を強請屋のライターに知られる。彼の死体を遺棄した御子柴には、鉄壁のアリバイがあった。

衝撃的な内容に気になりながらも数カ月間、購入を迷った作品。御子柴は間違いなく殺人犯で悪徳弁護士です。それなのに、彼がどうやって窮地を脱するのか、どう法廷で戦うのか目が離せず、ページをめくる手が止まりませんでした。
殺し屋シリーズ/「殺し屋、やってます。」石持浅海
ひとりにつき650万円で承ります。経営コンサルティング会社を経営する富澤允。普通に社会生活を送っているが、彼は一人につき六百五十万円の料金で人を殺す、殺し屋だった。
依頼を受けたら引き受けられるかどうかを3日で判断。引き受けた場合、原則2週間以内に実行する。ビジネスライクに「仕事」をこなす富澤だが、標的の奇妙な行動が、どうにも気になる。
なぜこの女性は、深夜に公園で水筒の中身を捨てるのか?独身のはずの男性は、なぜ紙おむつを買って帰るのか?
任務遂行に支障はないが、その謎を放ってはおけない。殺し屋が解く、日常の謎シリーズ、開幕です!

御子柴礼司シリーズと比べると、気負わず軽く読める連作短編集。とはいえ、推理ロジックは本格派で破綻がありません。このシリーズの面白いところは、殺し屋稼業が分業されていて、殺しの受注、仲介、実行が分かれており、殺し屋は依頼人の素性を知らないことです。
依頼人の素性を知らない中、標的の行動から、殺し屋が依頼の全貌を推理していく過程が新感覚で面白い作品です。
石持浅海さんの作品は、他のシリーズでも主人公が独特の倫理観を持つことが多く、新作が待ち遠しい作家さんの一人です。
脳男シリーズ/「脳男」首藤瓜於
猟奇的な連続爆弾犯のアジトで発見された、心を持たない男・鈴木一郎。逮捕後、新たな爆弾の在処を警察に告げた、この男は共犯者なのか。男の精神鑑定を担当する医師・鷲谷真梨子は、彼の本性を探ろうとするが・・・・・・。そして、男が入院する病院に爆弾が仕掛けられた。
あらゆる感情が欠落した男。男の正体の解明に挑む精神科医と共に事件の核心にたどりついた刑事が見たものとは。全選考委員が絶賛した超絶の江戸川乱歩賞受賞作。

心を持たない男・鈴木一郎は、どんな悪人や善人とも一線を画す特異なキャラクターです。著者はよくぞこんなキャラクターを生み出したものだと脱帽するばかり。
精神科医の真梨子の視点で、彼の過去を解き明かすうちに、あらゆる感情が欠落しているからこそ持ちうる、彼の能力と悲哀が明らかになっていきます。
心を持たないヒーローなのに、読了後にはすっかり感情移入してしまった作品です。
怪物の木こり/「怪物の木こり」倉井眉介
良心の呵責を覚えることなく、自分にとって邪魔な者たちを日常的に何人も殺してきたサイコパスの辣腕弁護士・二宮彰。ある日、彼が仕事を終えてマンションへ帰ってくると、突如「怪物マスク」を被った男に襲撃され、斧で頭を割られかけた。九死に一生を得た二宮は、男を捜し出して復讐することを誓う。一方そのころ、頭部を開いて脳味噌を持ち去る連続猟奇殺人が世間を賑わしていたー。第17回『このミステリーがすごい!』大賞大賞受賞作。

御子柴礼司が元殺人犯なら、二宮彰は現役の殺人鬼です。サイコパスが主人公なのに、ページをめくる手が止まりません。主人公だけでなく、脇役も、設定も常軌を逸した作品ですが、なぜか読後感がよく、久しぶりに再読しようかと思いました。
レクター博士シリーズ/「羊たちの沈黙」トマス・ハリス
獲物の皮を剥ぐことから”バッファロウ・ビル”と呼ばれる連続女性誘拐殺人犯が跳梁する。要員不足に悩まされるFBIが白羽の矢を立てたのは訓練生クラリス・スターリング。彼女は捜査に助言を得るべく、患者を次々に殺害して精神異常犯罪者用病院に拘禁されている医学博士ハンニバル・レクターと対面するがー。1980年代末からサスペンス/スリラーの潮流を支配する”悪の金字塔”!

レクター博士こそ、”悪の華”という言葉が最も似合うダークヒーローです。恐ろしい殺人鬼でありながら、知性的で洗練されています。大学生の頃にはまりましたが、グロテスクで怖い面もありますが、個人的には女性読者には魅力的な物語ではないかと思っています。
なぜなら、冷酷で恐ろしいレクター博士が、主人公のクラリスだけを特別扱いしてくれるのです。もちろん”バッファロウ・ビル”事件の展開も目が離せないのですが、レクター博士とクラリスがどうなっていくのかに一番注目して読んでいました。
レクター博士シリーズ(ハンニバルシリーズ)は、全4部作です。発表順と物語の時系列は次のとおりです。発表順の読書がおすすめです。
タイトル | 発表順 | 時系列順 |
羊たちの沈黙 | 1 | 3 |
ハンニバル | 2 | 4 |
レッド・ドラゴン | 3 | 2 |
ハンニバル・ライジング | 4 | 1 |

マンモスのおすすめは、「羊たちの沈黙」と「ハンニバル」。この二作は、レクター博士とクラリスが中心となって物語が展開します。
映画版もおすすめです。特にアンソニー・ホプキンスのレクター博士は、はまり役でした。

ホラーが苦手なマンモスとしては、「レッド・ドラゴン」と「ハンニバル・ライジング」はちょっと怖すぎました。
それぞれに魅力的なダークヒーローが活躍する物語です。まずは軽いところからという方は、「殺し屋シリーズ」が一番読みやすいと思います。スリラーや外国小説に苦手意識がない方、博士とヒロインの関係に酔いしれたい女性読者の方は「レクター博士シリーズ」からスタートしても良いかもしれません。
賊徒、暁に千里を奔る/「賊徒、暁に千里を奔る」羽生飛鳥
鎌倉時代の都でつつましく暮らす老侍。その正体は、かつてその名を轟かせた大盗賊・小殿(ことの)だった。説話集を作るため彼の下を訪れた下級貴族の橘成季と少年僧侶”明けの明星”に、小殿は盗賊時代の逸話を謎かけにして語ります。

小殿が謎かけを出すのは成季と明けの明星だけではありません。本作は連作短編集となっており、各話に歴史上の有名人がゲストとして登場します。
盗賊時代の小殿は悪逆非道ですが、本作では老年になり改心した小殿が語りますので、怖い話が苦手な方でも安心して読むことができます。
歴史×古典×ミステリが絶妙に融合していて、満足感の高い作品でした。
まとめ
それぞれに魅力的なダークヒーローが活躍する物語です。まずは軽いところからという方は、「殺し屋シリーズ」が一番読みやすいと思います。スリラーや外国小説に苦手意識がない方、博士とヒロインの関係に酔いしれたい女性読者の方は「レクター博士シリーズ」からスタートしても良いかもしれません。
いずれもダークな性格にもかかわらず魅力的なヒーローです。正統派ヒーローに食傷気味の方に、ぜひおすすめの作品です。
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