昔のようにテレビ時代劇が放送されないけれど、あの爽快感を味わいたい!
剣客・岡っ引き・商人…バラエティ豊かな主人公たちが、江戸の町で大活躍!
数ある時代小説の中から“面白さ重視”で選んだ作品を、ご紹介します。
成り上がり弐吉札差帖/千野隆司
理不尽な侍のせいで両親を亡くし、天涯孤独の身で奉公する弐吉は、奉公先の札差で辛い日々をおくります。武家社会では仇である侍は強大で恐ろしい存在。しかし、札差という仕事は、金の力で侍と渡り合うこともできるのです。そんな小僧の弐吉が、知恵と根性で成り上がっていくサクセスストーリーです。

時代小説としてもお仕事小説としても、爽快感あふれる物語です。続巻が出るのを待ち遠しく読み進めました。堂々の完結とはいえ、六冊で終わってしまったのが寂しい。もっと続いてほしかったお気に入りのシリーズです。
⇒「成り上がり弐吉札差帖」シリーズをもっと知りたい方はこちら
陽炎ノ辻 居眠り磐音江戸双紙/佐伯泰英
藩内の騒動がもとで江戸へ出てきた坂崎磐音。お金がなく浪々の身の磐音ですが、実は直心影流の達人です。ある日ふとした縁で引き受けた両替商の用心棒業から、幕府を揺るがす陰謀にまきこまれてしまいます。師匠から居眠り剣法と称される春風駘蕩とした磐音が活躍する爽快感あふれる作品です。

とにかく主人公が魅力的な作品です。用心棒先や住まいの長屋、果ては旧藩からも「坂崎様なら」と頼りにされる人柄なうえに、剣の達人。これでもてないわけもなく、主人公をとりまく恋物語も重要なエッセンスになっています。にやにやしながら夜更かしと再読を繰り返してしまう中毒性のあるシリーズです。
橘花の仇 鎌倉河岸捕物控/佐伯泰英
江戸鎌倉河岸にある酒問屋の看板娘・しほ。しほを慕う政次、亮吉、彦四郎と彼らを見守る鎌倉河岸の面々の人情味あふれる捕物譚。美人で絵描きの才のあるしほ、頭が冴えて度胸のある政次、独楽鼠のあだ名でおどけた亮吉、舟の扱いは抜群の腕前の彦四郎。それぞれに魅力的な若者たちの青春と成長が爽やかに描かれたシリーズです。

居眠り磐音シリーズと同じ著者のシリーズです。あちらは武士が主人公ですが、こちらは町人が主役。しほや政次ら若者の成長だけでなく、金座裏で特別な十手を持つ宗五郎親分や捕物帳好きの酒問屋の主、呉服店の隠居など若者を温かく見守る周囲の人情も魅力のひとつです。江戸鎌倉を舞台にした青春グラフィティー!私がイライラを吹き飛ばしたいときに読み返すシリーズです。
イクサガミ 天/今村翔吾
侍の武だけでは生きていけない明治の世。大金を得る機会を与えるとの怪文書によって、日本中から強者たちが京都の寺に集められます。そこから命と大金を賭けた東京行が開始します。剣客・嵯峨愁二郎は十二歳の少女・双葉を助け、ともに道を進みます。明治を生きた侍たちのデスゲームシリーズ!

江戸時代ではなく明治が舞台ですが、侍たちの死闘を描いたザ・エンタメ小説です。愁二郎と双葉だけでなく、ゲーム参加者各々の生い立ちや大金が必要な事情なども詳細に描かれ、感情移入しながら一気読みしました。激動の明治維新を越えても続く混乱した時代背景がぐっと胸に迫る作品。
火喰鳥 羽州ぼろ鳶組/今村翔吾
松永源吾はかつて江戸随一と呼ばれた武家火消だったが、五年前の火事が原因で今は貧乏浪人暮らしをしています。そんな源吾に出羽新庄藩から突然士官の誘いがあります。壊滅した藩の火消組織を再建してほしいというのですが。「ぼろ鳶」と揶揄される火消たちを率いて火事に立ち向かう手に汗握る、興奮必至のシリーズ。直木賞作家・今村翔吾のデビュー作です。面白くないわけがありません。

「ぼろ鳶」として源吾が集める火消仲間のキャラクターがあまりにも突き抜けていて痛快です。落ちこぼれのメジャーリーグチームが個性あふれる選手を率いて快進撃を続ける映画を思い出しました。
もちろんキャラクターの魅力だけでなく、源吾が火消を辞めた過去や炎に立ち向かう葛藤など、骨太な物語の展開にハラハラワクワクが止まりません。
御宿かわせみ/平岩弓枝
大川端にある小さな旅籠「かわせみ」を舞台に巻き起こる数々の事件を、「かわせみ」の女主人・るいと恋人の東吾が解明してゆく物語。元同心の娘のるいは、父の死後に町人になっており、与力の弟である東吾との結婚を諦めていますが、東吾はるいと添い遂げると決めています。次々に起こる事件に加えて二人の恋物語からも目が離せないシリーズです。

数ある時代小説と一線を画す女性らしいしっとりした物語です。テレビドラマでは、沢口靖子さんと村上弘明さんのシリーズを見たことがあり、美男美女のイメージで読み進めました。
入り婿侍商い帖/千野隆司
旗本家の次男・五月女角次郎は剣の腕には自信がありますが、跡継ぎでない身では家では肩身が狭く、ご飯のおかわりにも気を遣います。そんな角次郎がひょんなことから助けたつき米屋の主人に見込まれて婿入りします。若旦那として商売に意気込む角次郎ですが、実はお店は経営難。商いの素人である角次郎が、お店を狙う商売敵を向こうに回し、米屋を繁盛させていく物語。

いわゆる繫盛記ですが、善玉と悪玉がはっきりしていて、時代劇の勧善懲悪の爽快感が楽しい作品です。店の経営難や妻と話しができないことなど、結婚してから告げられる内情に驚きながらも受け入れて、克服していく主人公に好感が持てます。
善人長屋/西條奈加
善人ばかりが住むと評判の通称「善人長屋」。しかし実態は、全員が裏稼業を持つ悪党たちの巣窟でした。そんな長屋に、ひょんなことから錠前職人の加助が住み始めます。根っからの善人で、人助けが生き甲斐の加助は、次々と面倒ごとを持ち込んでしまいます。悪党たちは渋々ながらも、それぞれの裏稼業の凄腕を活かして事件解決に手を貸すことに・・・。

自分たちを「悪党」と呼ぶ長屋の住人たち。しかし渋々ながらも加助の人助けに手を貸す姿を見ているうちに、とても悪党とは思えなくなってきました。故買屋の父親、美人局の兄弟、髪結い床の情報屋――魅力的な登場人物たちがそれぞれの裏稼業で培った凄腕を発揮する様子は痛快です。一話一話は短編ながら、どれも読みごたえのある物語でした。同じ著者の『金春屋ゴメス』も読みましたが、個人的にはこちらの方が好みです。
深川青春捕物控一父と子/東圭一
深川漁師町にある小料理屋「しののめ」の息子・雄太。母のあきは女手一つで育ててくれていた。ある日、常連であった同心の高柳新之助から己の御用聞きの手先にならないかと誘われる。雄太の父は、新之助の亡き父で、新之助は腹違いの兄であると告白され、信頼できる手下が欲しいというのだが。

深いことは考えず、とにかく日常を忘れて楽しめる作品でした。小太刀が得意で度胸のある雄太、船頭の三吉、そして記憶力抜群の茂二。個性豊かな若者たちが江戸の町で繰り広げる捕物劇は、読んでいて心が弾むエンタメ小説でした。
損料屋喜八郎始末控え/山本一力
上司の不始末の責めを負って同心の職を辞し、刀を捨てた喜八郎。損料屋に身をやつし、与力の秋山や深川のいなせな仲間たちと力を合わせ、札差たちと渡り合います。田沼バブルのはじけた江戸で繰り広げられる息詰まる頭脳戦!

主人公の喜八郎は、腕も立ち頭の回転も速い切れ者です。魅力的な主役に好感が持てるのはもちろんですが、この作品では敵役の札差たちも実に個性的。金持ちの嫌な部分を凝縮したような笠倉屋、駄目な二代目の典型である米屋、そして底の知れぬ人物として圧巻の存在感を放つ伊勢屋――。個性豊かな札差たちと喜八郎の頭脳戦は、チャンバラ中心の時代小説とは一味違う楽しさがありました。



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