中学生におすすめのファンタジー・SF小説

カテゴリ別おすすめ本

氷河期世代の私が中学生時代に読んで以来、ずっと忘れられないおすすめのファンタジー・SF小説。ブログ執筆にあたって40歳を過ぎてから再読し、やっぱりおもしろいと厳選したおすすめの作品だけをご紹介しています。

空色勾玉/荻原規子

村娘狭也は15歳。みなし子だった昔の記憶も暖かな村ですっかり癒えて、悩みといえば、神の子であると噂される「輝」一族の皇子へのかなわぬ憧れのみ・・・。ところが祭りの晩に鬼が来て告げた、おまえは「輝」に敵対する「闇」一族の巫女姫「水の乙女」なのだと。おまえの運命だ、と握らされた幽の勾玉に導かれて出会った、すべてを統べる剣の主の思いがけない正体は・・・?国家統一をもくろむ「輝」と土着の「闇」が烈しく争う乱世を横糸に、少女狭也の成長を縦糸に織りなされる豪華絢爛なファンタジー。

  • 狭也(さや)・・・闇の一族の「水の乙女」。輝の一族の月代王に憧れる。
  • 稚羽矢(ちはや)・・・輝の宮に幽閉されていた少年
  • 月代王(つきしろのおおきみ)・・・輝の大御神の皇子。戦に飽きては、代々の水の乙女を連れ帰る。
  • 照日王(てるひのおおきみ)・・・月代王の姉神。苛烈な性格。
  • 鳥彦(とりひこ)・・・闇の一族の少年。輝の宮に身を寄せた狭也を助ける。
マンモス
マンモス

マンモスが和風ファンタジーにハマった最初の作品です。この作品がきっかけで和風ファンタジーの面白さを知りました。

おすすめポイント<美しい日本語>

輝は「かぐ」、闇は「くら」と読みます。登場人物の名前も、狭也、稚羽矢、月代王、照日王、科戸王(しなどのおおきみ)、伊吹王(いぶきのおおきみ)、狭由良姫(さゆらひめ)など、文字を追うだけでうっとりするような名づけになっており、著者の古典文学への造詣の深さがうかがえます。

物語は闇の巫女姫として生まれた狭也が、嬥歌(かがい)で出会った月代王に誘われて輝の宮に身を寄せることからスタートします。水の乙女としての生まれを拒絶し、光に憧れる狭也ですが、輝の大御神の降臨に向けて、闇の一族を駆逐する輝の一族のあり方に葛藤します。そんな狭也が輝の宮の奥に幽閉された不思議な少年、稚羽矢と出会ったことで物語は一気に動き出します。

マンモス
マンモス

狭也をめぐる恋模様も見どころの一つです。なんといっても狭也は姫巫女だけあった美人でモテモテなのです。骨太の児童文学賞受賞作でありながら、これだけモテモテの主人公というのも珍しいのではないでしょうか。輝と闇の争いだけでなく、恋愛要素も詰まった作品なので、ファンタジーに馴染みのない方でもするすると読み進めることができます。

中学時代と大人になってからの読後感は異なりますが、大人になっても色褪せることなく、童心に帰って夢中で楽しめる作品です。創作の異世界が舞台ではなく、日本の神話や古事記をどっしりと下敷きにした物語です。若い読者の方には、古事記や古典への入口としてもおすすめの一冊です。

関連作品

空色勾玉は勾玉三部作となっており、「白鳥異伝」「薄紅天女」という関連作品があります。どちらも神話や古典を題材とした骨太の和風ファンタジーとなっていて、もちろん恋愛要素も詰まった良作となっています。

これは王国のかぎ/荻原規子

最低最悪の誕生日。泣き疲れて眠って目覚めたら、そこはチグリスの河口だった!不思議な力を持つ魔神族として、見知らぬターバンの青年と旅することになった「あたし」。荒れ狂う大海原、灼熱の砂漠。辿り着いた都では王家の騒動に巻き込まれ・・・・・・。アラビアンナイトの世界に飛び込んだ少女の、恋と冒険の物語。

  • 上田ひろみ(ジャニ)・・・優等生でしっかり者の15歳の女の子。失恋して泣き疲れて眠ったら、アラビアンナイトの世界で魔神族(ジン)になっていた。水が弱点。
  • ハールーン・・・魔神族になったひろみを壺から出した青年。ひろみに「ジャニ」と名前をつける。実は王宮から逃げ出した王子。
  • ラシード・・・僧院で育った拾われ子。
  • リコ・・・ひろみの同級生の美少女。しっかり者で優等生のひろみに憧れている。
マンモス
マンモス

「空色勾玉」の荻原規子さんのアラビアンファンタジー。空色勾玉のモテて仕方のない狭也と違って、いきなり主人公が失恋したところから物語が始まります。

ひろみは優等生でしっかり者。友人のリコはそんなひろみに憧れていますが、ひろみが密かに片思いしている同級生の男の子は美少女のリコと恋人になってしまいます。この冒頭だけだと読む気が失せてしまいそうになりますが、大丈夫です。ここからがびっくりな展開になります。失恋に泣き疲れたひろみが目を覚ますと、なんとチグリスの河口で魔神族(ジン)になっていたのです。

そこで出会ったカッコいい青年、ハールーンに『あんたはおれの幸運だろう』と言われて、冒険の旅に出ることになります。

あんたは魔神族で、大きな力をもっている。その力でおれの夢をかなえるために、おれたちはここで出会ったんだよ。生まれたばかりのあんたには、力を発揮する機会がまだないだろう。そのために、おれがここにいるのさ

「これは王国のかぎ」荻原規子 2007年 p30

失恋した『上田ひろみ』をやめて、魔神族になったひろみは、空を飛んだり何もないところから欲しい物を取り出したりと、大きな力を手に入れます。力を手に入れたひろみは、実は王子だったハールーンが追っ手から逃げるのを手助けしますが、二人は嵐の海で離ればなれになってしまいます。そんなひろみが次に出会うのが、拾われ子のラシードです。ハールーンと再会したいひろみですが、ラシードと行動を共にするうちに、またもや王家の騒動に巻き込まれてしまうのです。

マンモス
マンモス

舞台はアラビアンナイトの世界。王宮を飛び出した王子様や悪い王妃や宰相が登場する世界です。でも主人公は15歳の日本人の女の子。どうしてひろみは魔神族になったのか。失恋したばかりの少女が、わたしの存在意義ってなんなのかと悩みながら冒険を繰り広げていく物語です。女子中高生はもちろんのこと、大人だって胸ときめかせて楽しめる作品です。

同級生の男の子は美人で天然の「リコ」を恋人に選びました。この本は、真面目で責任感の強い「ひろみ」のような女の子の背中を押してくれる一冊です。

関連作品

高校生になった上田ひろみのもう一つの物語です。こちらはファンタジーというより、ミステリ・サスペンス色の強い内容となっています。

きっかけは、ほんのなりゆきだった。巻きこまれるようにしてかかわることになった生徒会執行部の活動。合唱祭、演劇コンクールに体育祭。そして、あの事件。高校二年生の上田ひろみが出会った、学校に巣くう「名前のない顔のないもの」とは?

マンモス
マンモス

舞台は著者の高校時代の思い出を下敷きに描かれているようです。男子の多い伝統ある進学校。そこで、生きづらさを感じる少女、ひろみの目線で物語が語られます。相変わらず惹きこまれるような美しい言葉の散らばりが魅力的です。少女のための物語でありながら、昔少女であったすべての女性にとっても、どこか懐かしさと切なさを感じさせてくれるおすすめの一冊です。

大きく息を吸いこむと、かすかにキンモクセイの香りがするような気がする。この花は、ひんやりした夜になるともっと匂うのだ。季節は移っていく・・・・・・だから、私たちも移ろっていくのだろう。

「樹上のゆりかご」荻原規子 2006年 p239

タイム・リープ あしたはきのう/高畑京一郎

高校二年生の鹿島翔香はある日、昨日の記憶を喪失していることに気づく。そして彼女の日記には、自分の筆跡で書かれた見覚えのない文章があった。”あなたは今、混乱している。―若松くんに相談なさい” 日記の言葉に従い、クラスメートの秀才・若松和彦に助けを求めると、半信半疑ながらも協力してくれることに。だが、翔香はただの記憶喪失ではなく、あるルールに則って時を移動しているようで―?

  • 鹿島翔香・・・東高の二年生。朝、目覚めて学校に行くと、”昨日”の記憶がないことが分かり――?
  • 若松和彦・・・翔香のクラスメート。頭脳明晰でトップクラスの秀才。翔香に助けを求められるが――?

ある日、月曜日のつもりで登校した翔香は今日が火曜日だと言われて戸惑います。翔香には月曜日の記憶が喪失していますが、カバンには火曜日の教科書が準備され、昨日の授業のノートもとっていたのです。不安を感じた翔香は、日記を見返します。するとそこには、クラスメートの若松くんに相談しなさいという不可解な言葉が自分の筆跡で記されていたのです。

若松くんとともに謎を追っていくと、翔香はただの記憶喪失ではなく、あるルールに則って時を移動<タイムリープ>していることがわかります。タイムリープ現象の解明を進める若松と翔香ですが、翔香の命が狙われて・・・。

マンモス
マンモス

タイムリープを主題としたSF小説ですが、タイムリープは厳密なルールに則っていて、上質なミステリとしても楽しめる名作です。

マンモスは中学時代に友達にすすめられて読んだ結果、再読したくて自分でも購入しました。

おすすめポイント

タイムリープには厳密なルールが設定されています。このルールがあることで、ミステリとしても楽しめる仕掛けになっています。例えば、ルール①同じ時は繰り返さない。 ルール②空白の「時(スケジュール)」を埋めないと、タイムリープ現象は終わらない。 ルール③タイムリープのきっかけは、翔香が危険を感じたとき。危険じゃないと判断すると、その「時」に戻って来る。 

マンモス
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この物語の秀逸なところは「あしたはきのう」であること!やっと若松くんを味方にした翔香ですが、タイムリープで過去に戻ってしまえば、過去の若松くんはタイムリープのことを知らないのです。そのため、●曜日の若松くん、〇曜日の友人の行動などをすべて踏まえたうえで、時としてタイムリープ現象に翔香一人で立ち向かっていかなくてはいけないのです。

タイムリープが主軸となっているだけあって、過去と未来に散りばめられた伏線が最後にすべて回収される仕掛けは圧巻の一言です。何度読み直しても、どうしてこんなややこしい組み立てができるのか著者の頭の中が不思議でなりません。

彩雲国物語/雪乃紗衣

紅秀麗は彩雲国きっての名門・紅家のお嬢様。ところが世渡り下手な父のせいで家計は常に火の車。おかげで深窓の姫君とは思えないほどのしっかり者に成長した秀麗のもとへ、ある日とんでもなく高額な賃仕事の話が舞い込んだ。提示された報酬に目がくらみ、一も二もなく飛びついた秀麗だったが、その仕事内容はといえば、即位間もない昏君・紫劉輝の教育係として、からっぽの後宮に貴妃の身分で入内しろというものだった・・・・・・!?

  • 紅秀麗・・・名門だけど貧乏な紅家のお嬢様。高額報酬のアルバイトに目がない。報酬につられて国王の教育係を引き受ける
  • 茈静蘭・・・紅家の家人。主家の稼ぎの低さに武人としても出仕する。驚異的な若作り。
  • 紫劉輝・・・男色家と噂される国王。兄弟間の王位争いで生き残って即位したが、政務をとらずに逃げ回っている。
  • 藍楸瑛・・・武官で若手随一の実力者。人を食った性格の持ち主。
  • 李絳攸・・・国試に史上最年少で主席及第した秀才。極度の方向音痴。
マンモス
マンモス

中華風の架空の国を舞台とした物語。アニメ化されただけあって「空色勾玉」や「これは王国のかぎ」に比べるとキャラクターが尖っていて、コミカルに読みやすい描写となっています。

その反面、権力闘争や市井での飢饉の悲惨さなど、シリアスな場面も描かれており、約200ページの作品に内容がぎゅっと詰まっています。

「空色勾玉」や「これは王国のかぎ」が主人公の成長物語として楽しむことができるのに対し、彩雲国の紅秀麗は徹頭徹尾、優等生でいい子です。ぼんやりした父親を助けるためにアルバイトで仮の貴妃となり後宮に潜り込みますが、教育対象の国王は逃げてばかりで顔を合わせることすらできません。

そんな秀麗はある日、ぼんやりの父親を訪ねた府庫で藍楸瑛と名乗る若い男と出会います。本物の藍楸瑛の顔を知っている秀麗は、彼が偽物だと見抜きます。自らを「余」と称する偽物は秀麗に興味を持ち、翌日から二人は毎日府庫でお茶をすることになるのです。ここから、秀麗がダメ国王にどうやってやる気を起こさせるか主人公の奮闘と、国王はなぜ政務をとらないのかの謎が展開していきます。

おすすめポイント

とにかく展開が速く、キャラクターが濃い物語です。すごく性格の良い主人公。とんでもなく強い武人。腹黒官僚。秀才だけど、極度の方向音痴。これでもかと個性的なキャラクターが登場します。

マンモス
マンモス

中学生の頃に夢中になって読んだシリーズです。大人になった今でも楽しめますが、コミカルな展開と一途なキャラクターの言動は中学生くらいの年代にこそおすすめです。

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