印象的な表紙と「このミステリーがすごい!大賞受賞」の文字に惹かれて購入した一冊。古代エジプトを舞台とした物語は他にもありますが、何と言っても日本人が書いた物語なので、とっつきやすく読みやすい。しかも浪漫あふれる設定だけでなく、「このミス大賞」受賞作だけあって、ミステリとしても一級品のおすすめエンターテインメント小説です。
登場人物
- セティ・・・上級神官書記。王墓の崩落事故で命を落とす。欠けた心臓を探すため、ミイラとして蘇る。
- タレク・・・天才的なミイラ職人。セティの親友。先代ファラオやセティのミイラを手掛ける。
- カリ・・・奴隷の少女。生まれはハットゥシャ。
- アクエンアテン・・・先代のファラオ。エジプトの主神をアテンと定め、ほかの神々への信仰を禁止する。一年前に病死。
- マアト・・・真実を司る神。死者の心臓を秤にかけて審判を行う。セティの心臓には欠けがあり、秤にかけられないと告げる。
あらすじ
舞台は古代エジプト。死んでミイラにされた神官セティはマアト神による死後の審判を受けようとしますが、心臓に欠けがあり、このままでは永遠に魂が彷徨うことになると告げられます。
セティは欠けた心臓を取り戻すため、ミイラとして地上に舞い戻ります。その期限はたったの三日。心臓を探すため、自分が死んだ事件を捜査するセティは、もう一つの事件に直面します。なんと棺に納められた先王のミイラが、密室状態であるピラミッドの玄室から消失したというのです。
タイムリミットが迫る中、セティは自身の死の謎とピラミッドの密室の謎に挑みます。
おすすめポイント1<奇想天外な設定>
物語はいきなり主人公(セティ)が死んだところから始まります。主人公は現世に蘇りますが、あくまでもミイラとして。物語の主人公はミイラなのです。
現世に蘇ったミイラ(セティ)。ゾンビ映画であれば大騒ぎになりますが、なんとこの物語では、周囲の登場人物たちは何の違和感もなく受け入れるのです。なぜなら、舞台は神々が信仰される古代エジプトなのですから。
おすすめポイント2<古代エジプトなのに圧倒的に読みやすい>
心臓の欠けを探す主人公。ミイラが蘇るのに違和感がない世界。私たちにとって、不思議でしかない古代エジプト世界がどうしてこんなに読みやすいのか。
それは奴隷の少女「カリ」の存在によるのだと思いました。彼女はエジプト人ではなく、ハットゥシャ出身の”外”の人間です。彼女の目線から、エジプトの常識や文化に関する疑問や不合理さが語られることで、私たち読み手がエジプト世界を理解することを大いに手助けしてくれるのです。
まとめ
三日間というタイムリミットの中で、セティの死の謎、ピラミッドからのミイラ消失の謎、という二つの謎が縦軸に展開します。
そして、横軸として、セティとタレク、セティとイセシ、カリと彼女の両親、という人間関係が描かれます。
タイムリミットサスペンス、ファラオ、密室、ミイラ消失とパワーワードが並びますが、なんとも爽やかな読後感です。一風変わったミステリを読んでみたい方におすすめの一冊です。
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