こどもの頃にハウス名作劇場で見たり、読書感想文に書いたりした、いわゆる名作と呼ばれる作品。アニメや児童書によって輝いた記憶を残している作品ですが、大人になって原作を読んでみると、知っている内容と異なっていたり、印象が違ったり。もちろん思い出を辿るように懐かしさを感じる作品も。ここでは私が大人になって読み返した感想を記録しています。
小公子/バーネット
父親を亡くし、アメリカで母親と暮らす少年、セドリック。ある日、父方の祖父から使いがあり、イギリスの伯爵の跡継ぎとして迎えられることになります。とにかく優しくていい子のセドリックとアメリカ嫌いで頑固者の伯爵のやり取りが微笑ましく何度も読み返した作品です。
- セドリック(フォントルロイ小公子)・・・アメリカ生まれの少年。かわいくて性格も優しい。祖父の跡を継ぐためにイギリスへ渡る。
- ドリンコート伯爵・・・セドリックの祖父。アメリカ嫌い。意地悪で頑固者。
- エロル夫人・・・セドリックの母親。伯爵によりセドリックと離れて暮らす。
- ホップス・・・アメリカに住む食料品店の主人。セドリックの一番の友だち。
子どもの頃に何度も読み返したときと、変わらず幸せな気持ちで読み進められました。子ども時代とほぼ同じ印象で読めた作品。大人になったからか、この作品の優しい世界がより一層愛おしく感じます。

バーネットの作品で一番大好きな物語です。しかも翻訳は川端康成で、日本語も優しく美しい作品です。
秘密の花園/バーネット
十歳にして両親を亡くし、伯父に引きとられたメアリ。こまどりに導かれ、ひっそりと隠された庭園を見つけた彼女は、世話役マーサの弟のディコン、病弱ないとこのコリンとともに庭の手入れを始めます。
- メアリ・・・インドで生まれ育った少女。両親の死によりイギリスの伯父に引き取られる。物語の冒頭ではとても感じのわるい女の子。
- ディコン・・・メアリの世話役の弟。動物に好かれる。
- コリン・・・メアリのいとこ。病弱で寝たきり。わがままな性格。
アニメの影響か映画の影響か、美しい花園のイメージを強く持っていた作品。三人の関係も恋愛要素があったように記憶しており、前半でメアリとコリンのわがままぶりにも驚きました。秘密の花園に導くこまどりやディコンと動物が意思疎通する場面など、イメージ以上にスピリチュアルな印象を強く受けました。

小公子と同じバーネットの作品でも、子ども時代の思い出とは大きく異なる内容でした。それでも、花園が美しく蘇る描写は、なんとも美しい物語でした。
十五少年漂流記/ジュール・ヴェルヌ
14歳を筆頭に、15人の少年たちだけを乗せた船が、ふとしたことから荒海に出てしまいます。少年たちは大嵐で流れ着いた先で、生きるために工夫を重ねて生活することになります。
- ゴードン・・・最年長の少年
- ブリアン・・・年下の子たちに慕われる優しい少年。弟のジャックを心配している。
- ジャック・・・ブリアンの弟。本来は快活な少年だが、漂流してからは元気がない。
- ドノバン・・・ブリアンと対立するグループのリーダー。
子どもだけでの生活がとても楽しそうだったと記憶していましたが、原作では孤島での暮らしの過酷さが克明に描写されていたように思えました。アニメと原作の相違点なのか、ドノバンの性格や彼の行動が記憶とは若干異なるような印象を受けました。アニメのドノバンの方が気骨のあるイメージです。原作のほうが、現実味が増しているのかもしれません。

15人の少年たちの名前が次々に登場するので、追いかけるのが大変でした。主要人物は昔の記憶があったので、なんとかついていくことができました。昔は苦も無く覚えることができていたのでしょうが・・・。
八十日間世界一周/ジュール・ヴェルヌ
謎の紳士フォッグ氏は、改革クラブのメンバーと大金二万ポンドの賭けをします。内容は八十日間あれば世界を一周できるというもの。フォッグ氏は賭けに勝つため、フランス人の召使を従えて世界一周の旅に出発します。
- フォッグ氏・・・謎の紳士。改革クラブのメンバー。時間に正確で、八十日間で世界一周できると賭けをする。
- パスパルトゥー・・・フォッグ氏の召使い。各地で騒動を巻き起こす。
- フィックス・・・刑事。フォッグ氏を銀行強盗だと思い込んで、世界旅行の跡を追う。
朧げな記憶が上書きされ、改めて大満足な作品でした。フォッグ氏が間に合うかどうか、最後の展開しか覚えていなかったので、パスパルトゥーが巻き起こす騒動やフィックス刑事との追いかけっこなど、改めて読むと読み応えがありました。日本を含む世界各国の描写について、十九世紀後半のフランス人であるヴェルヌの認識はこのような世界観なのかと、その点も興味深く読み進めることができました。

なんといっても最後の大どんでん返しが痛快な作品。結末を知っていてもおもしろいなんて、ジュール・ヴェルヌはやっぱりすごいと再認識しました。
モンテ・クリスト伯/アレクサンドル・デュマ
恋人との結婚を控えたエドモン・ダンテスは、愛欲・金銭欲・名誉欲にかられた三人の敵に陥れられ、幸福の絶頂から奈落の底に突き落とされます。囚われの身となったダンテスが、牢での運命的な出会いを通じて復讐を誓う物語。本棚の真ん中に飾っておきたいお気に入りの物語です。
- エドモン・ダンテス・・・マルセイユの有望な船乗り。無実の罪で14年間囚われの身となり、復讐を誓う。
- ファリア神父・・・イタリアの神父。シャトー・ディフに収監されており、エドモンに知識を与え、第二の父と慕われる。
- メルセデス・・・エドモンの恋人。囚われたエドモンの身を案じるが・・・。
- ダングラール・・・エドモンと同じ船の会計士。エドモンの出世を妬む。
- ヴィルフォール・・・マルセイユの検事代理。ボナパルト党員である父の罪を隠そうとする。
- フェルナン・・・メルセデスのいとこ。彼女を愛し、エドモンを邪魔に思う。
子どものころに、巌窟王という児童書で知った物語。間違いなく大人になって原作を読んだほうが楽しめました。昔は理解できなかったナポレオンを巡る時代背景や大量の登場人物の複雑な人間関係は、大人になったからこそ味わえました。岩波文庫7冊を毎日寝不足になりながら読み通しましたが、終わりに近づくのがもったいなく思えるほどでした。

これまでに同作を題材にした児童書、映画、ミュージカルを鑑賞しましたが、原作より楽しめたものはありませんでした。非常に長い物語なので、エッセンスだけでなく細部まで堪能したければ、やっぱり原作が一番だと実感した作品です。
デュマには他にも代表作と呼ばれる作品がありますが、私はモンテ・クリスト伯が一番好きです。
三銃士/アレクサンドル・デュマ
十七世紀のフランス。ガスコーニュの田舎から銃士になることを夢見てパリへ出てきたダルタニャンは、アトス・ポルトス・アラミスの三人の銃士と決闘を約束します。決闘騒ぎで意気投合した四人は、友情を結び、フランスを牛耳るリシュリュー枢機卿と敵対することになります。
- ダルタニャン・・・ガスコーニュ出身の青年。銃士になることを夢見てパリに出てきた。
- アトス・・・銃士隊の一員。名門貴族らしいが、酒飲みで過去に秘密があるという。
- アラミス・・・銃士隊の一員。出家して僧侶になることを希望している。
- ポルトス・・・銃士隊の一員。金貸しの夫人の金櫃を狙っている。
- ミラディー・・・枢機卿配下の女スパイ。数多の男を騙し、不幸にしてきた妖女。
- リシュリュー枢機卿・・・フランスを牛耳る権力者。親衛隊を配下とし、銃士隊と敵対している。
- コンスタンス(ボナシユー夫人)・・・王妃の下着係。枢機卿の罠にかけられた王妃のためにダルタニャンに助力を乞う。
こどもの頃に大好きだったアニメや映画とも全く異なった印象を受けた作品。もちろん人物の名前や時代背景は同じですが、アニメや映画では正義と悪をわかりやすくカテゴライズしていたのだと感じました。それでも長編の原作だからこそ、三十年戦争やリシュリュー枢機卿、バッキンガム公爵などの実在の人物とフィクションを比較しながら楽しむことができました。

アニメや映画とはもはや別の作品と言っても過言ではないと思いました。ミラディーは作品によって生粋の悪女だったり、悲劇のヒロインの立ち位置だったりしますが、原作での設定をやっと知ることができました。ただ、なにより驚いたのが、ヒロインであるコンスタンスが既婚者であること。こどもの頃に知っていたら、驚天動地だったと思います。
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